神戸地方裁判所 昭和51年(行ウ)1号 判決
原告
大谷猛
同
梶谷絹代
同
梶本英子
同
寺尾通雄
同
中田照枝
同
三浦祐治
右原告ら訴訟代理人弁護士
前田貞夫
同
小牧英夫
同
山内康雄
同
大音師建三
同
川西譲
同
足立昌昭
同
垣添誠雄
同
上原邦彦
同
木村祐司郎
同
藤原精吾
同
前哲夫
同
佐伯雄三
同
原田豊
同
羽柴修
同
野沢涓
同
西村忠行
同
小沢秀造
同
藤本哲也
被告
P
右訴訟代理人弁護士
俵正市
同
弥吉弥
同
重宗次郎
同
苅野年彦
同
草野功一
同
坂口行洋
同
寺内則雄
主文
一 被告は、兵庫県朝来郡朝来町に対し、金一〇九〇万七九九七円及びこれに対する昭和五一年一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、兵庫県朝来郡朝来町に対し、金二五三〇万六三八七円及びこれに対する昭和五一年一月一八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁〈省略〉
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
原告らは兵庫県朝来郡朝来町の住民であり、被告は同町の町長の職にあつた者である。
2 八鹿・朝来暴力事件の概要〈①事件と同一のため、以下省略〉
3 B差別文章事件について〈省略〉
4 狭山差別裁判闘争について〈省略〉
5 「解同」の狙いと行政の責任〈省略〉
6 南但民主化協議会、町民主化協議会の実態〈省略〉
7 被告の支出
被告は、兵庫県朝来郡朝来町長として、昭和四九年九月一一日から昭和五〇年三月三一日までの間に、別表記載のとおり、南民協、解同甲支部及び同支部員に対し、合計三〇九九万二三八七円を地方自治法二三二条の二による補助金として支出した(以下この支出を「本件支出」という)。
朝来町は、昭和五三年七月二三日に別表のうち2(1)ないし(4)記載の自動車三台及びスピーカー一個を取り戻したうえ、(1)の自動車は五万円で、(2)のそれは一〇万円で昭和五五年二月一五日にいずれも売却し、(4)のスピーカーは無償譲与するなどして結局五六八万六〇〇〇円の損害が填補された。したがつて朝来町の損害は三〇九九万二三八七円から五六八万六〇〇〇円を差し引いた二五三〇万六三八七円となる。
8 本件支出の実体的違法性
(一) 解同財政の総肩代わり
(1) 本件支出は別表のように、
ア 南民協関係
イ 備品購入費
ウ 解同甲支部活動費
エ 旅費の補助金
に分類することができるが、これらは、帰するところ、解同の活動費の朝来町による総肩代わりである。
(2) 一般に、団体が活動するためには、什器備品等の設備、運搬・宣伝等のための車両、活動のための人件費(旅費・日当等)、事務・通信費、活動のための費用等が必要である。そして、団体は、そのための財政を構成員の拠出、事業収入等により、賄う。もし、財政力がなければ、活動を縮小ないし停止するしかない。
にもかかわらず、解同甲支部(以下「甲支部」ともいう)をはじめ南但馬の解同各支部は、その必要とする費用の全部を各町に負担させ、被告をはじめ当時の各町長は、それが、自治体としての公金の支出のいかなる原則にも適合しないことを知悉しながら、解同の「行政確認」「行政糾弾」に屈して、要求されるまま多額の違法支出を継続した。
当時、南但馬の住民は、南但馬一帯が解同の蛮行により、無法地帯と化したと実感しているが、その蛮行を町が財政的に支えたのであるから、町民は自ら出捐した税金に苦しめられると言う不合理を課されたわけである。
(3) 即ち、朝来町に限つても、被告が甲支部のために支出したのは、
ア 活動・宣伝のための車両を「解放車」として購入すること
イ 甲支部専従者並びに活動参加者の賃金・一時金・健康保険料・失業保険料・厚生年金等を負担すること
ウ 「狭山闘争」「F闘争」「八鹿闘争」と称する一連の活動の費用・日当・旅費・食費等を負担すること
エ 南民協負担金の名目で、多額の活動費を解同に与えること
等々であり、まさに、解同の財政は町財政と一体化してしまつている。
(4) 地方自治体のなす「補助」は自主的な財政(財源)を確立している団体への公益的「補助」でなければならず、本件のように、民間団体に過ぎない解同の財政を自治体が総肩代わりすることは、いかなる意味においても、「補助」とは言い得ない。これこそ、他に例を見ない本件違法支出の特徴である。
(5) 被告自身、本件支出の時期は町自体が解同と連帯して闘争することを方針としており、同時に解同の活動費を公金から支出していたこと及び後にこれを誤りとして、改めたことを認めている。
(二) 南民協関係(別表1)
(1) 支出行為
被告は別表(1)〜(4)のとおり、南民協に対し、計五八二万〇六〇〇円を支出した。
(2) 違法性
ア 前述(請求原因欄6参照)したように、被告は南民協をトンネルとして、公金を解同へ渡していたものであり、この支出は町から直接、解同へなされたものと同然である。このことは、南民協の昭和四九年度一般会計予算歳入一三八七万円のうち、各町の負担金が一三八六万円を占め、歳出一三八七万円のうち、解同への「繰出」が一二四六万円を占めていることからも明らかである。
また、昭和四九年度特別会計は予算では、三万四〇〇〇円に過ぎないのに、決算においては、歳入四五九八万円のうち、各町負担金が四五八三万円となり、歳出の殆どが解同の闘争費で占められている。加えて、昭和四九年度当初予算にはなかつた臨時負担金五三〇万円が組まれ、これが、返済金に充てられている。
これは、昭和四九年度予算を組んだ昭和四九年六月当時には、解同の闘争費として、一二四六万円を渡すことを約束していたのが、解同の「闘争」がエスカレートするに伴い、次々と多額の要求を突きつけられ、異例の特別会計で四六〇〇万円もの闘争費負担をし、それでも足りなくて、五三〇万円の臨時負担金まで徴収したことを意味している。
結局、南民協をトンネルとして、解同に渡された闘争資金は、六三〇〇万円にも上がるのである。
イ 別表1(1)は昭和四九年一一月一三日に支出されたものであるが、これは、「朝来闘争」と称し、解同と町が連帯して、F宅を包囲監禁した集団暴力事件の直後であり、昭和四九年一〇月二三日神戸地方裁判所豊岡支部が仮処分決定により、包囲・監禁を禁止した後のことである。
別表1(2)〜(4)は、いずれも、八鹿高校事件を契機に解同幹部が逮捕された後の支出である。
ウ 別表1(2)(3)の特別会計負担金は、その支出が、闘争本部専従者の諸手当・闘争本部運営費・闘争委員会費用・各種器具購入(電子コピー・輪転機・ビデオ・マイク)・青年部活動費、行動費・支部員活動費等になされており、これは解同の闘争費そのものである。このうち、ビデオは八鹿高校事件における犯罪行為を解同が撮影するのに使用し、そのフィルムが捜査当局に押収されたのである。
別表1(4)は、「八鹿高校闘争関係経費」の不足分五二九万余円を解同幹部が逮捕された後に各町に割り当て徴収したものである。
エ 以上のように、本件南民協関係の支出は、解同が公然と犯罪行為に出はじめて後に、その闘争ないし活動を支えるためになされたものであり、それが、活動費(闘争費)の総肩代わりとして、違法であるとともに、犯罪行為に加担するために公金を支出したものとしても違法であるを免れない。
(三) 事業費・備品購入費(別表2)
(1) 支出行為
被告は別表2(1)〜(5)の自動車等購入費として、計一九〇八万四三九〇円を支出した。
(2) 違法性
ア 別表2(1)〜(4)は、いずれも、「解放車」及びその装置を購入するために支出したものである。なお、一部損害が填補されていることは、前述のとおりである(請求原因欄7参照)。
イ 「解放車」は、町が自ら購入した形をとつているが、その車体には、解同A支部の表示及び荊冠旗の表示がなされているため、公用車として使用できるものではないので、購入した車両は解同が排他的使用・管理するものであり、町が購入して、解同に無償譲与したものと変わりない。
ウ これは、前述の活動費総肩代わりの一つであり、その購入の時期は、(1)が橋本宅監禁事件の直後で、(2)が八鹿高校事件の前日である。(3)(4)は解同幹部逮捕後であり、神戸地方裁判所での公判に解同支部員を動員するためのものである。司法当局により、逮捕・起訴された解同幹部を支援するために、地方自治体が動員用の車両を購入して与えることは、「補助」には程遠い。
エ (5)は解同がその闘争スローガンを掲示するための看板を公金で支弁したものであるが、前述の「闘争費総肩代わり」の一つとして、違法である。
(四) 甲支部活動費(別表3)
(1) 支出行為
ア 被告は別表3(1)ないし(6)、(20)ないし(22)、(28)ないし(32)、(34)、(35)を甲支部専従者・活動参加者に対する賃金として支出し、(16)を甲支部専従者の年末手当として支出した。
イ 被告は別表3(7)ないし(15)、(17)ないし(19)、(23)ないし(27)を甲支部専従者の健康保険料・厚生年金・失業保険料として支出した。
ウ 被告は別表3(33)を「八鹿闘争」の甲支部活動費として、(36)を「F糾弾闘争」の甲支部活動費として支出した。
エ 被告は、(37)を同和学習活動費として支出した。
(2) 違法性
ア 右支出は、前述のように、解同支部の活動費・闘争費の総肩代わりであつて、違法である。
イ 支部専従者・活動参加者の賃金は、甲支部がその自主的財政により、支弁すべきものであり、自治体が、職員でもない(雇用関係のない)民間人に賃金や年末一時金を支払える根拠はない。
ウ また、甲支部専従者の健康保険料・厚生年金・失業保険料などは、雇用主たる甲支部が出捐すべきもので、雇用関係に立たない町が負担する根拠はない。
エ 「八鹿闘争」「F糾弾闘争」活動費については、後述のとおりである。
オ 同和学習活動費は、実際にそれを支出したのは昭和四九年一二月一三日で、正規の支出決定に基づかない仮払いによりなされている。
ところで、右支出時期は、昭和四九年一二月二日、八鹿高校事件を契機に甲支部長(「八鹿高校差別教育糾弾闘争共闘会議議長」)。Cら四名が逮捕された後であり、甲支部そのものが混乱状態に陥つており、最早、「同和学習」などをやつている時期ではなかつた。この時期、甲支部は支部員を動員して神戸地検などに釈放を求める行動をしたり、勾留理由開示公判(昭和四九年一二月一二日)へ動員したりしていたわけであるから、そのための費用を必要としていたもので、支出名目は「同和学習」とされているが、実際は、支部幹部逮捕・勾留等の刑事事件対策費として支出されたものである。
被告自身、昭和四九年一二月一二日第一八三回朝来町(定例)議会第二日目において「八鹿高校差別教育糾弾闘争、これらのとりくみの中で議員の皆さん方の中にも共闘ねがつてご苦労ねがつたわけでございます。そうした経過の中で傷害事象等があつたためにC支部長外三名の逮捕者が出て、(昭和四九年)一二月九日には、議長なり助役、同対室長が逮捕の現状報告、或は弁護士そうしたところに激励なり連絡なりお見舞いなりにあがつたわけでございます。一〇日の日には……県連本部なり所属の弁護士なり、私どもは、C氏が兵庫署に勾留されているので、兵庫署等にといつたところをまわつてきた訳でございます。……この逮捕・勾留は違法である、従つて、即時釈放願いたいという上申書をもつて……主任検事のところにまわつたわけでございます。……なお、第二次の逮捕が今朝出たかのように聞いています。今少し、内容が明確になつておりませんが、非常に残念な状態でございます。」と発言し、被告は解同幹部が、逮捕状により逮捕されても、これを違法逮捕であるとして、被逮捕者の激励に出掛けたり、主任検事に即時釈放を求める書面を出したりしているのであるから、昭和四九年一二月一三日の支出が刑事事件対策費であると推断するに難くない。
更に、支出課目は、同対費の貸付金とされているが、この貸付金は「生業資金」の貸付けであるから、いかにも、出鱈目であり、このことからも、予算を無視して解同への多額の支出を強行したことが見られる。
(五) 旅費の補助金(別表4)
(1) 支出行為
ア 被告は別表4(1)〜(4)を「狭山闘争」「F闘争」「八鹿闘争」のための甲支部活動費(日当・食費・通行料等)として支出した。
イ 被告は別表4(5)を「日共差別キャンペーン粉砕看板作り日当」として支出した。
(2) 違法性
ア 「F闘争」
(ア) ここに「F闘争」(「朝来闘争」)とは、解同甲支部が中核となり、南但地区支部連絡協議会(南但支連協)とともに、Fを「糾弾」すると称して、昭和四九年一〇月二〇日から同月二六日までの間、F宅を包囲監禁し、集団脅迫を加えたもので、その概要は、前述のとおりである(請求原因欄2(一)(2)参照)。
(イ) 被告はかかる犯罪行為に連帯すると称して、その費用に充てるため二五七万二〇〇〇円(別表3(36)、4(2))の公金を支出しているのであるから、それが違法であることは多言を要しない。なお、被告自身も、犯罪行為とされた包囲・監禁に参加している。
イ 「狭山闘争」
(ア) ここに「狭山闘争」とは、被告人Kに対する強盗強姦、強盗殺人等被告事件が、部落出身者に対する差別事件であるとして、無罪判決を勝ち取ることを目的に、解同が展開していた「闘争」で、その概要は前述のとおりである(請求原因欄4参照)。
(イ) 解同が狭山裁判を差別裁判であるとして、無罪を求める運動を展開すること自体は、その当否は別として、解同の任意であるが、自治体ないしその首長が解同の主張を正しいものとして連帯し行政の立場から司法を批判する運動を展開したり、運動団体である解同にその活動費を支弁するのは、明らかに、三権分立・行政の中立性に違背する。
(ウ) 本件では、甲支部支部員が解同の主催する「狭山闘争」に参加するための食費・通行料等を支出しているが、これが、行政が関わつてはならない運動への支出として、違法であることは明白である。
ウ 「八鹿闘争」
(ア) ここに「八鹿闘争」とは、解同兵庫県連の指揮下に、甲支部をはじめ南但馬の解同支部が、兵庫県立八鹿高校における同和教育を差別教育であるとして、これを「糾弾」すると称して、昭和四九年一一月二二日、同校の多数の教職員を集団で逮捕・監禁したうえ、リンチを加え多数の者に重傷を負わせた集団暴力事件で、その概要は前述のとおりである(請求原因2(二)参照)。
(イ) 被告は、甲支部長Cらが逮捕された昭和四九年一二月二日の翌日及びCらが起訴されて一か月以上後の昭和五〇年二月六日に、「八鹿闘争」のための活動費を支出している。なお、別表4(4)「和田山闘争本部詰要員活動費」は、「八鹿闘争」のための本部が、八鹿町と和田山町におかれたうちの和田山本部に関するものである。
(ウ) 「八鹿闘争」は、まさに、部落解放とは無縁な暴力集団のリンチ事件であり、かかる行為への公金の支出が適法とされる余地は皆無である。
エ 「日共差別キャンペーン粉砕看板作り」
解同が日本共産党の部落解放政策を「差別」として、批判することは、その当否は別として、解同の任意であるが、自治体が、これを「日共差別キャンペーン」であるとして、その粉砕を目的とする看板を公金で作らせることは、言うまでもなく、違法である。本件当時、鉄道沿線には、日本共産党を非難する看板が林立していたが、被告は、これを日当を払つて作らせていたもので、ここには、行政の中立性も、行政と運動体との区別もなく、地方自治機能の崩壊があるだけである。
9 本件支出の手続的違法性
(一) 地方財政支出の原則
財政支出の一般手続原則〈①事件とほぼ同旨のため、省略〉
(二) 本件支出の手続的違法性
(1) 予算に基づいていないこと
本件支出の大半は、当初予算の定めになく、期中の補正予算によるものであるが、現実の支出は、補正予算に計上・議決されるまでになされており、これは、予算に基づかない支出として違法である。また、長の専決処分として議会の議決に基づかずに支出をなしうる要件もない。
(2) 支出負担行為、支出命令に基づいていないこと
被告の支出方法は、予算にない支出を先ず「仮払」として正規の支出決定書でない書類により現実の支出をなし、補正予算議決後に正規の支出決定書(兼支出負担行為書)作成して辻褄を合わせるという明らかな違法行為である。かかる「仮払」命令は支出命令(決定)に当らない。被告は解同のためには、ともかく、先に公金を支出してしまい、後で書類を整えるという財政原則を全く無視したやり方をとつたのであり、これが、「連帯」「共闘」の中味である。
(3) 本件瑕疵は治癒されないこと
右のように、被告の公金の支出は、予算もなく、専決処分の要件もないまま強行されたものであるから、たとえ、補正予算により予算措置がとられたとしても治癒されない(松山地判昭和四八年三月二九日判例時報七〇六号一八頁)し、議会の議決があつたからといつて法令上違法な支出が適法な支出となることはない(最高裁判昭和三七年三月七日民集一六巻三号四四五頁)。
10 地方交付税について
被告は、本件違法支出に対し、国の地方交付税の交付の増額により填補されたかのように主張するけれども、そもそも地方交付税は地方自治体の財政を総体として補填するために交付されるものであり、特定の財政支出を補填するためのものではない。即ち、地方交付税収入は国庫補助金と異なり、一般財源として与えられるものであり、特定支出の填補を観念する余地はない。
したがつて、地方交付税額の如何により、本件違法支出が填補されることはありえない。
11 違法支出についての被告の認識(被告の故意)
(一) 被告は、本件支出について、自ら、民間運動体にすぎない解同と「連帯」「共闘」すると公言して、先頭に立つて「闘争」に参加するなかでなしたものであり、それが地方財政支出の原則に合致しないことを十分認識していたものである。これは、故意による違法支出である。
(二) 被告は、支出当時は、解同の運動に「連帯」「共闘」することが部落解放の名において正当であると認識していたと主張するのであろうが、部落解放の名を使えばいかなる公金の支出も許されるというのは暴論も甚だしい。部落解放がいかに国民的課題であろうと、そのために自治体がなしうることは、地方自治の本旨によらざるをえず、自治体ないしはその首長が、運動団体と「連帯」「共闘」することは許容されない。被告は、自らの地位が全町民の信託によることを忘れ、解同の無法の力の高まりに押し流され、自らの権限を逸脱したのである。
解同による蛮行が、八鹿高校事件による丸尾らの逮捕を契機として鎮静化していつた後、被告を含む南但各町長が、行政と運動とを区別する方向へと転換していつた事実は、被告が、自己の逸脱を自認したことを意味する。いかに、解同の不法な運動が高まつても、自治体の長たる被告は、その運動に呑み込まれてはならないのであり、これは長として守るべき最後の衿持である。
したがつて、被告の本件支出は被告の町民に対する重大な背任に帰すると言わねばならない。
12 原告らの監査請求〈省略〉
13 結論
よつて、原告らは、地方自治法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、兵庫県朝来郡朝来町に代位して、被告に対し、同町がこうむつた損害二五三〇万六三八七円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和五一年一月一八日から支払ずみまで民法に定める年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の本案前の主張〈①事件と同一のため、省略〉
三 被告の本案前の主張に対する原告らの反論〈省略〉
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2について
冒頭の主張は争う。(一)(2)の事実は否認する。(二)の各事実のうち、被告主張(後記五3参照)に反する部分を除き、いずれも否認又は争う。(三)の主張は争う。
3 同3のうち、B差別文章事件の内容は、被告主張(後記五2(一)参照)のとおりであり、その余は否認又は争う。
4 同4のうち、いわゆる狭山裁判の内容は、おおむね原告ら主張のとおりであるが、その余は否認又は争う。
5 同5の主張はすべて争う。
6 同6について
(一)の事実のうち、南民協の目的及び組織が原告ら主張のとおりであることは認め、その余は否認又は争う。同(二)の事実のうち、各町の町民協が、南民協と同様の趣旨で設立されたことは認め、その余は否認又は争う。
7 同7の前段は認める。
8 同8について
(一)の主張はすべて争う。(二)ないし(五)のいずれについても、(1)の各支出行為は認め、(2)の違法性の各主張は争う。
9 同9ないし11の主張は争う。
10 同12の事実は認める。
五 被告の主張
1 同和対策への取組み〈①事件と同一のため、省略〉
(二) 本件支出について
(1) 南民協への支出(別表1関係)
ア 原告らは南民協に対し支出した五八二万〇六〇〇円が違法であると主張するのでこの点について反論する。
南民協の組織、目的及び事業内容等については前述した(五1(二)(1)参照)が、その目的は憲法一四条の理念に基づき人権を尊重し、自由と平等の精神に従い、地域における差別を除去し、もつて明朗で平和な社会の建設に寄与することであり、その事業としては右目的達成のため①差別意識に対する啓蒙、民主化の促進、②同和行政、同和教育の推進、③各種の実態調査研究と資料の整備、④その他目的達成に必要と認める各事業を実施することとしているのである(南民協規約参照)。右の目的は同対答申の精神に沿うものであり、同対法の目的にも合致し、またその事業は同対法の国、地方公共団体の施策にも合致するものである。
すなわち、同対法は、すべての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのつとり、歴史的社会的理由により、生活環境等の安定向上が阻害されている地域について国及び地方公共団体が協力して同和対策事業を行い、右地域における経済力の培養、住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的としているのであり(同対法一条参照)、南民協の目的と合致するものである。また、同対法は、国及び地方公共団体の責務として、「国及び地方公共団体は、同和対策事業を迅速かつ計画的に推進するように努めなければならない(同法四条)」とし、同和対策事業の目標として、「同和対策事業の目標は、対象地域における生活環境の改善、社会福祉の増進、産業振興、職業の安定、教育の充実、人権擁護活動の強化等を図ることによつて、対象地域の住民の社会的経済的地位の向上を不当にはばむ諸要因を解消することにあるものとする(同法五条)」と規定し、国、地方公共団体の施策として、「対象地域の住民に対する学校教育及び社会教育の充実を図るため、進学の奨励、社会教育施設の整備等の措置を講ずること(同対法六条六号)」、「対象地域の住民に対する人権擁護活動の強化を図るため、人権擁護機関の充実、人権思想の普及高揚、人権相談活動の推進等の措置を講ずること(同法同条七号)」、「前各号に掲げるもののほか、前条の目標を達成するために必要な措置を講ずること(同法同条八号)」としており、南民協の前記各事業と合致する。
地方自治法は普通地方公共団体の寄附や補助についての規定をおき、公益上必要がある場合は寄附又は補助をすることができるとしている(同法二三二条の二)のであり、本件で原告らが違法支出であるとする南民協への負担金(地方自治法上は補助金)は、右南民協の目的や事業が同対法一条、六条六ないし八号、同法四条、五条、八条に規定する同対法の目的、国や地方公共団体の責務、国・地方公共団体の施策と合致するものであり、更に各町の町長や議会その他関係機関を構成員とするものであるところから、これに対する補助はまさに公益上必要なものといわざるを得ない。したがつて原告らが不当支出であると主張する南民協に対する各支出は全て地方自治法二三二条の二に基づく補助金として正当なものである。
イ 南民協では、昭和四九年一月のB差別文章事件が発生したことから、兵庫県の強力な指導、南民協構成各町長等による検討の結果、B差別文章事件及びそれに続く幾多の差別事象における差別の実態を認識し、差別解消への施策として、学習会の徹底や、行政担当者自らが学習をなすこととなつたが、差別を解消するためには、いかなる差別が実在するかをまず把握する必要があり、そのためには差別事象の実例を解同から提供してもらうことが欠かせないことであつた。右の目的を達成するためにはそのための事務所の設置や資料集めのための経費等を要することは当然であり、和田山に設置された右目的達成のための解同事務所に要する経費については、南民協が解同に援助することとしたものである。
右の経費援助についても、南民協はその会長、副会長が窓口となり解同と再三協議し、県の経費援助に関する方針とも一致すべく、必要最少限にとどめたものである。
南民協の会計は、その収入のほとんどを構成町の補助金からまかなうことになつているが、構成町一〇町の負担割合は均等割と町人口割及び地区世帯数割となつており、その比率は昭和四九年度についてはそれぞれ0.3、0.3、0.4である。そして昭和五〇年度は0.3、0.5、0.2の負担率である。右のように補助金を各町が負担することは地区世帯数の僅少な村岡町や美方町も多額の補助金を負うことになることを示すものであるが、右両町も部落解放のための南民協の施策を国民的課題であり、行政の責務であると深く理解し、右補助金を負担しているのであり、本件南民協への支出が構成町の全てにとつていかに重要な行政の責務と認識されていたかを如実に示すものである。
ウ 南民協への支出のうち別表1(1)の第三期分担金は、いわゆるB差別文章事件の発生とは関係のない、その前年度までと同様の補助金であり、別表1(2)ないし(4)がB差別文章事件発生後、南民協としてのそれまでの解放への取組みの甘さを痛切に感じ、種々の施策、事業を積極的に取組み推進したことによる補助金である。
エ 以上のとおり、南民協への支出は地方自治法二三二条の二の補助金として正当なものであり、また原告らのいう南民協をトンネル機関として支出したとの主張も誤つたものであることが明白である。
なお、南民協への補助金は前述のとおり朝来町だけでなく、南民協加盟の一〇町全てが均等割、人口割及び地区世帯割の負担割合で補助金を支出しているのであり、被告だけが違法支出として請求されるべきものではない。他に本件と同様、訴え提起をされた養父町の当時の町長Qは全く請求されていないのである。今回昭和四九年度における町の公金支出につき、朝来町のP、八鹿町のA及び養父町のQの三名のみが住民訴訟を提起されているが、南民協への補助金支出は南民協構成町の一〇町が前述の一定の比率で同様になしているにも拘らず、右三者のみが訴え提起され、また三者の中でも南民協への補助金に限定すれば、原告らの訴訟代理人が共通であるにも拘らず、養父町で違法支出として請求していないことは極めて不思議な現象である。
(2) 事業費・備品購入費(別表2関係)
ア 事業費・備品購入費のうち、別表2の(1)ないし(3)は自動車の購入費であるが、右自動車を購入したのは、B差別文章事件、Fの差別を助長し再生産する言動等多くの差別事象が発生する中で、朝来町においても他の南民協加盟の各町と同様、県の指導にもある「差別の実態の中に差別解消を学ぶ」ことにより、差別解消という国民の責務、行政の責務を遅まきながらも積極的に遂行することとなつたのである。そしてそのためには、行政はもちろんのこと差別される側の者達の差別解消に対する意識の高揚や一般住民に対する人権思想の普及高揚等広報活動、学習会活動が重要な施策として位置付けられたのである。このことは同対法においても国や地方公共団体の施策として明記されているところである。右の施策を速かに効果的に遂行するためには、その機動力として車輌が不可欠であり、その目的のため前記の車輌を町が購入したものである。したがつて右車輌及び車輌に設置するスピーカー(別表2の(4))はいずれも町が同和行政を推進するための備品として必要なものであり、同対法に基づく支出であつて違法性はない。
イ ところで、右車輌等は解同甲支部に貸与したことは事実であるが、前述のとおり、差別解消のための行政を推進するためには、差別される側の協力や差別解消に対する意識の高揚がなければ行政からの一方的な押付け施策となつて効果があがらないのであり、より解放行政を効果的にするためには解同に貸与することが必要となるのである。そのような町の判断により貸与したものであつて、他の南但各町においても同様である。別表2の(5)の福祉会館前の掲示板購入費用は、町の福祉会館前に町の広報活動のため掲示板を設置する必要があつたため購入した費用であり、何ら違法性のないことは明白である。なお、車輌購入については養父町ででも同様であるが、別件訴訟の被告Qに対しては請求されていない。
(3) 甲支部活動費(別表3関係)
ア 昭和四四年七月一〇日施行された同対法の制定に伴つて、昭和四四年度から同五三年度に至る一〇年間において行う同和対策事業についての基本方針及びその具体的内容につき、政府は昭和四四年七月八日「同和対策長期計画」(以下「長期計画」という。)を定め閣議で了解した。右長期計画は、①基本方針、②各省別の基本的考え方、③各省別の計画の内容、④財政措置等の四部からなるが、②の各省別の計画の基本的考え方の厚生省の項に「隣保事業の充実をはかるため、隣保館の整備、運営の改善等を行う。」とし、③の各省別の計画の内容の厚生省の項に「隣保事業の充実 隣保館を、効率的な運営が期待できる五〇世帯以上の地区について整備するとともに、社会教育と緊密な連携を保ちつつ、地区の実情に即した運営が行われるようその充実をはかる。」とされている。この長期計画によつて、朝来町にも隣保館(朝来町においては福祉会館と一般的に言われている。)が建設され、朝来町の施設として町の同対室の出先機関としての機能を果していた。すなわち、同和地域の環境整備、解放行政の地区内の拠点として地区の実態調査、生業資金・住宅貸付資金・生活保護の受付窓口業務、各層・各団体を対象とする学習会、小学校・中学校の学力推進学級の計画や立案、学習会等の会場設営等の業務を行つていたのである。そして、右の業務を円滑にかつ実効性あるものにするためには右福祉会館内に解同甲支部の事務局をおくことが必要であつた。既に述べたように昭和四九年一月以降の差別事象の発生により、解放運動は盛り上り、町も積極的に解放行政を推進している時期であつたので、福祉会館における前述の業務も極めて多忙となり、そのため町職員を補充しなければならない状態であつた。このような状態は朝来町のみではなく、南但各町においても同様であり、現に養父町においては三名を町長部局で採用し、教育委員会へ出向の形で隣保館での業務を遂行している。もちろん三名の職員は地区の住民である。朝来町においては、右業務を遂行するために正規の町職員として採用し配置することは人件費の増大や長期化につながる恐れがあるとの配慮から町の臨時職員待遇に準じて、支部の専従者に賃金に相当する金員を補助したものであり、別表3の(1)ないし(32)、(34)(35)は正当な支出である。原告らは、右の支出は町の職員でもない民間人に支払われたものであり雇用関係にない以上根拠がないと主張するが、右主張は表面的、形式的なものであり、実質的には町の業務を遂行している者に対する支出であり、かつ、町の解放行政の目的にもかなうものであるから、違法支出とは言えないものである。
イ 別表3の(33)八鹿闘争の関連で支部に支出した二四万三〇〇〇円については、前述(五2(三)、五3(一)(四)参照)のとおり、同和問題は人類普遍の原理である人間の自由と平等に関する問題であり、日本国憲法によつて保障された基本的人権にかかる課題である。その早急な解決は、国や地方公共団体の責務であり、現に昭和四九年当時は南但地域におけるB差別文章事件をきつかけに行政も積極的に右責務を遂行していた時期であつた。このような行政の解放のための施策と目的を同じくして、高等学校や中学校においては、部落解放問題について本質的に取り組み研究するために解放研が設置され、多くの生徒が自主的に参加して熱心な研究と実践活動が進められていたのであるが、右の解放研を設置することは当時兵庫県においても教育委員会の方針であり現に実施されていたのである。ところが八鹿高校においては右解放研の設置を管理職が認めながら、日本共産党の影響下にある一部教員の煽動により職員会議がこれを認めないとし、設置を求める生徒達の願いを無視し、話し合いにも応じないという行動をとつた。このような同対法の趣旨に反する八鹿高校の教育を正常化することは行政をはじめ国民の責務であるので、南但地域の各町や議会、育友会、南民協など日本共産党系を除く合計二一〇団体が共闘会議を結成し、八鹿高校の教育正常化を求めたのである。したがつて、八鹿高校闘争は部落差別解消のための行政をはじめとする住民全ての行動であり、その行動のために参加した部落民に対する一定の枠内での費用弁償は同対法上の正当な支出である。
ウ 別表3の(36)のF闘争関連の支部活動費二五〇万円については、前述(五2(二)、五3(三)(3)参照)のとおり、南但地域の各町や南民協、町民協・町同協が同対法の行政の責務を遂行するべく、差別解消のための同和行政、同和学習を推進していることに対し、右行政は「逆差別」を生むものであるとか、解同の行なう確認会等に対し恐怖心をいたずらにおこさせ、ひいては解同や解放研を構成する部落民に対する恐怖意識を刺激し、差別意識を助長する行為をなしたFに対する確認糾弾のための経費である。右Fに対する確認糾弾は行政が推進する解放のための施策に対しこれを妨害し、差別を助長するといつた同対法の精神に真向から対立する行動に対し、その是正を求めるためのものであるから、同対法上の国や地方公共団体の責務であり、したがつて右行動に参加した部落民に対し、一定の枠内で費用弁償することも同対法上の正当な支出である。
エ 別表3の(37)の同和学習活動費としての一〇〇万円の支出は南但地域における各町と同様、朝来町においても同対法上の行政の責務として対象地域の住民に対する人権擁護活動の強化をはかるため、人権思想の普及高揚、人権相談活動の推進等を行つていたのであるが、そのための同和学習は事柄の性質上部落民あるいは解同支部の協力が不可欠な要因であつた。右一〇〇万円の支出は、そのような同和学習に対する経費を解同に支出したものであり、同対法に規定する行政の責務、行政の施策である解放のための各種学習会の経費そのものであつて、正当な支出である。
(4) 旅費の補助金(別表4関係)
ア 別表4の(1)及び(3)はいわゆる狭山闘争関連の費用であるが、狭山闘争の意義は前述(五3(一)(2)参照)のとおりである。右運動については、当時全国の地方公共団体の大多数が狭山裁判は本質で同和部落民に対する差別裁判であるとの位置付けをし、無罪判決を求める運動を展開していたのである。兵庫県においても右と同様の判断で県下の各市町村に対し、強力な指導助言をし、南但地域では、県の出先機関である但馬教育事務所が南但各町に指導助言を行つた。そのような状況の下で、南但各町も狭山裁判を本質では同和部落民に対する差別裁判であるとの位置付けをし、無罪裁判を求める運動を展開することとなつたのである。各町においても議会でその旨の決議をなし、右運動を推進していつたのである。
右の運動を推進するためには町独自の行動とともに解同と連帯して行うことが事柄の性質上やむを得ないことであり、集会に参加する同和地区の人達に対しその交通費等一定の枠内で補助することは右運動を町が推進する以上必要な経費となるのである。
イ 別表4の(2)及び(4)の支出合計一六万五〇〇〇円は朝来闘争関連費用であるが、朝来闘争の意義については既に繰り返し述べたところであり、正当な支出である。
また別表4の(5)の四万八〇〇〇円の支出はFらが日本共産党の方針により前述のとおり町の解放行政を妨害し、差別を助長する言動を繰り返していることから、そのような部落解放をはばむ行動をやめさせ、また一般町民の誤解を解消するために行つたものであり、正当な支出である。
(三) 支出の適法性
(1) 本件支出の法的根拠と目的
ア 〈①事件と同一のため省略〉
イ 本件支出については、補正予算の議決を得ているのであるがその際町議会で十分審査し、議決を得て執行したものである。もちろん議会においては支出の目的等すべての事情を明らかにして審議され、圧倒的多数の議決を得ているものであるから、仮に議会の議決を得たものであつてもそのことだけでは違法性は阻却されるものでないとしても、当時の議員の大多数が正当な支出であると判断していたことは事実である。議会の予算議決は、執行機関に対し予算執行の権限を与えるにすぎず、公金支出の原因が適法であることまで確定する効力がないものではあるが、本件支出については、住民全てに関わる重大な案件として、議会でも詳細な説明をなし慎重に審議しているのであり、また現に公金を支出するという予算執行の時点においても議会あるいは委員会、議員協議会等で説明し、了承を得ているのであり、この点からも本件支出は適法であるといわなければならない。
ウ〜カ〈①事件と同一のため、省略〉
キ 本件支出のうち事業費・備品購入費についても原告らは町が購入して、解同に無償譲与したものとかわりないとして、地方自治法二三二条の二の補助金には程遠いと主張しているが、町が購入した車輌三台及び同車輌に設置するスピーカーは町が同和対策事業費の備品として購入したものであり、所有権はあくまでも町にある。また福祉会館前の掲示板も町の所有するものである。したがつて、右車輌等の購入費は地方自治法二三二条の二の補助金ではなく、町の同対事業費そのものである。右車輌及びスピーカーは解同に貸与したことは事実であるが、それは同和対策としての学習会や住民の人権意識の普及高揚のためには差別される者の協力や、その者との連帯がない限り効果的になしえないのであるから、かかる判断の下になした貸与であり、何ら違法なものではない。現に朝来町に限らず養父町でも八鹿町でも車輌を購入し、解同に貸与しているが、養父町においては別件訴訟の被告Qに対し車輌購入費を違法支出として損害賠償請求していない。
尚、仮に右支出が違法であるとしても、前述のとおり所有権が町にあり、一定期間貸与した後町が更に使用し、その後売却処分しているのであるから、町に損害は発生していない。
ク〈①事件と同一のため、省略〉
(2) 支出の手続
ア 〈以下①事件の事実第二 五3(三)(2)の前段及び中段と同一のため、省略〉
イ 〈以下①事件の事実第二 五3(三)(2)イと同一のため、省略〉
(四) 故意・過失〈①事件と同一のため省略〉
4 地方交付税について〈①事件と同一につき省略〉
六 原告らの反論〈省略〉
3 被告の主張3(本件支出の適法性)に対する反論
(一) 各事件の意義について〈省略〉
(二) 本件支出について
(1) 事業費・備品購入費について
ア 自動車の購入について
自動車が必要であるとしても、同盟員がもつている自動車を遣り繰りして使用させればよいのであつて、二〇〇〇万円近くもの公金を支出して、専用自動車を貸与(実体は、解同への無償譲与)する必要はない。あるいは、町所有の公用車を、必要なときに貸与すれば、足りる。
また、この自動車の車体には、購入時点で、「解同甲支部」の表示及び荊冠旗の表示がなされ、解同が専用するものとして、購入されている。現実にも、この自動車は、後に起訴された犯罪行為の道具として、使用され、且つ、事件最中や事件後に、町内を走り回り、町民を恐怖に陥れたものである。
イ 掲示板について
「掲示板」は、町の広報活動のために設置されたものではなく、解同甲支部の宣伝活動のために設置されたものである。
(2) 甲支部活動費について
ア 支部専従者に対する賃金について
(ア) 朝来町の福祉会館が、本来は、被告主張の目的のために設置されたとしても、解同が「朝来闘争」「F糾弾闘争」「八鹿高校糾弾闘争」等と称して、活動していた間は、本来の機能を停止しており、会館は解同甲支部の闘争本部として使用されていたのである。したがって、解同甲支部の「専従者」とは、右「闘争」の専従者でしかなかった。
被告は、これを「町の業務を遂行している者」と言うけれども、右「闘争」はいかなる意味においても、町の業務とは言い得ない。
(イ) 被告は、この闘争専従者を「町の臨時職員待遇に準じて」、「賃金に相当する金員を補助した」と説明している。
右の「町の臨時職員待遇に準」ずるとは、いかなる意味か理解に苦しむが、これをいかに「補助金」と言おうと、その実体が賃金であることにかわりないから、これを支払うためには、地方公務員法二四条六項により、条例で定めなければならない。にも関わらず、条例に定めのない賃金を、「補助金」の名目で支払うのは、地公法の右規定を潜脱するもので違法である。
(ウ) 仮に、賃金を「補助金」の名目で支払うことが可能であるとしても、前述のように解同の専従者は、解同の闘争に専従している者であるから、その賃金を補助するのは違法である。
これは、町による解同財政の「総肩代わり」の典型である。
イ 八鹿高校事件に関連してのA支部への支出について
(ア) いかに、同和問題が国民的課題であろうとも、解同の「理論」と「方針」だけが、正しいものとして、これを批判する者に対して、暴力的攻撃を加えることが許される訳がない。加えて、公共団体である町が、解同と一体となつて、解同批判者に対して、攻撃を加えるなどと言うことは到底許されない。
(イ) 八鹿高校闘争は部落差別解消のための行政をはじめとする住民全ての行動であるとの被告の主張は、全く、事実に反する。
本件で問題としている解同の「闘争」は、解同の糾弾に屈した被告をはじめ住民の一部が、解同と連帯すると称して、解同とともに、解同に屈しない者を暴力的に攻撃したに過ぎない。「八鹿高校闘争」も、その典型の一つである。
(ウ) 右「闘争」は、民主主義の否定の上に成り立つており、これを財政的に援助するための支出は、民主主義や地方自治の自殺行為であつて、それが適法性を有しないことは自明の理である。
ウ F宅包囲監禁事件に関連しての甲支部への支出について
(ア) 「F闘争」についても、「八鹿高校闘争」との同様のことが言える。すなわち、Fは、教師として、部落解放を真に遂行するためには、どうすべきかであるかを真面目に考え、実行してきた者であり、それが、解同の「理論」や「方針」にそぐわないからと言つて、これを暴力的に攻撃する「闘争」は、民主社会において許容されるものではない。
被告は「同対法の精神」を強調するけれども、同対法のどこにも、解同を批判する者に対して、暴力的攻撃を加えてよいと書いていない。
(イ) 被告は、本件支出が「Fに対する確認糾弾のための経費である」と自認するのであるから、「F闘争」が、解同を批判していたFを攻撃するためのものであることを自認するものであり、かくては、かかる闘争が民主主義の根本に背馳することが明らかである以上、支出の違法性を自認するに等しい。
エ 同和学習活動費について
「同和学習」の費用を補助することは、公共団体の補助として、適法であろう。しかし、本件の「同和学習費活動費」は、既に、指摘しているように、昭和四九年一二月一三日に支出されたものであつて、この時期は、同月二日に、解同甲支部長Cら四名が逮捕された後である。したがつて、右支出は、Cらの逮捕に関する対策費を、同和学習費の名目でなしたものであつて、公共団体の補助の限界を著しく超えている。
(3) 朝来闘争に関連した旅費の補助について
被告の主張は、Fらが日本共産党の方針により町の解放行政を妨害しているので、これを糾弾するための活動に支出をなしたのであるから支出は正当であると言うものである。
Fは、部落解放を真に進めるには、どうあらねばならないかと言う自己の信念に基づき、活動を展開していたものであるが、そのことは、さておくとして、それが、たとえ、日本共産党の方針と同じであつたとしても、国会に議席を持ち、活動を展開している政党に対して、地方公共団体の長が、これに反対するために自ら行動し、且つ、反対して活動している団体に対し、公金を支出すると言う程の暴挙はない。したがつて、被告の主張自体、支出の違法性を自認したものと言うほかない。
(三) 本件支出の適法性に対する反論
(1) 本件支出の法的根拠と目的に対する反論
ア 被告は、原告らの主張を「解同が活動するについては、その費用は一切解同が自らの資金により行うべきで、町がそれに対し補助することは全て違法であるとの基本的な考えのもとに本件各支出は全て違法であると主張している」と要約しているが、これは、誤りである。即ち、原告らは、解同への補助をもつて、全て違法であると言うのではなく、民間団体にすぎない解同の全財政を町財政をもつて賄うのは、「補助」の限界を超えていると主張するものである。
被告は「同対法の精神」とか「差別の解消」とか「人権思想の普及高揚」を強調するが、本件はかかる一般論に解消できるようなものではない。被告が言う一般論は、原告らとしても当然前提としているのであるが、行政が運動体と同化してしまい、且つ、行政が運動体の言うがままに財政支出をすることは、同対法ほかいかなる法律によつても、予定されてはいない。
イ 被告は、本件支出が議会、委員会、議員協議会等の了承を得ているから適法であると主張するが、先ず、指摘せねばならないのは、当時の町議会議員は、町当局と同じく、解同の「糾弾」を受けて、その殆どが解同の言うままに動く状態であつたから、議員自体は町当局の行政執行について、チェック機能を有しなかつたことである。しかも、議員がかかる状態になつたのは、町長である被告が率先して解同と連帯すると称して、町民や議員を、この「連帯」に引き込んでいつたからにほかならない。
したがつて、公金支出が、単に、委員会や議員協議会で了承されただけでは、適法とならないのは当然として、たとえ、議会の議決があつたとしても、当時の議会の不正常な状態(議会が不正常な状態に陥つたのは、被告の責任によるところが大であることは前述のとおりである。)からして、右議決を理由に支出の適法性を主張することはできない。
ウ 被告は、収入役が適正な支出と判断しているから、本件支出は適法であると主張するが、本件では収入役の現実の支出行為が問題なのではなく、「長」の支出命令の適否が問題なのである。
エ 被告は、本件支出は町議会で決算の承認を受けている、監査委員の監査で正当とされている、あるいは南但一〇町の協議の結果であるから適法である旨主張するが、違法な支出は被告主張のような右事由があつても、違法を治癒されるわけではない。
オ 町が購入した車輌等について
形式的所有権が町にあるとしても、自動車自体の管理、使用権限が解同に専有されている以上、町が解同に無償譲与したと同様である。
朝来町が、解同の専有においていた本件自動車を、解同から返還させたのは、町長がF(F宅監禁事件において、解同やこれと連帯する被告等が、「糾弾」の対象とした人物)となつてからである。しかし、右返還によるも解同が自動車を専有していた期間の減価は、町の損害として残る。
(2) 本件支出の手続面での適法性についての反論
ア 予算にない支出負担行為は、原則として無効である(甲府地判昭三一年七月二四日行集七巻七号一八六四頁)。
イ ところで、予算にない支出負担行為であつても、これに基づく公金支出までに補正予算が議決されれば、その瑕疵は治癒されるとしても、本件支出は、支出負担行為さえなく「仮払」の名目でなされているものが多いから、右の治癒をいうことさえできない。しかも、補正予算が議決されるまでに、既に、公金が支出されてしまつているものが多いから、これについては、右の「治癒」論によつても、治癒されない。
ここで、「仮払」とは、支出負担行為もなく、公金を支出することを言うから、二重の違法(①予算なし、②支出負担行為なし)を冒しているものであつて、右「治癒」論により、「治癒」を論ずるには、余りにも、違法性が大である。
ウ したがつて、被告が右「治癒」論により、本件支出を適法であると主張するのは、失当であり、右「治癒」論も予算のない「仮払」までを治癒するものではない。しかも、被告は補正予算についても、町長の専決により補正予算を組んだというのであるが、これが違法であることは明らかであるから、かかる補正予算がくまれたことは、何ら瑕疵の治癒となりうるものではない。
(四) 本件支出についての被告の認識についての反論
ア 被告は「同対法」をもつて本件支出の根拠としているが、同法が目的としたのは、国や地方自治体が、同和対策事業をなすことによつて、同和地域の経済的向上を図るというものであつて、自治体自体が運動体である解同と連帯して、「解放運動」を進めることではなく、また、自治体が「解放運動」を財政的に「丸抱え」するためのものでもない。運動とは別に、独自の施策により、自治体が部落解放に寄与すべきであるというものである。
イ 被告主張のように、兵庫県が解同との関係につき、一定の指導をしていたとしても、公金をどのように支出するかは、自治体が独自の判断で決定すべきものであつて、いわゆる「政治指針」と現実の公金支出とは、厳に、区別されねばならない。解同の活動経費を「総肩代わり」ないし「丸抱え」することが、公金の支出として許されるものではないことは、何も難しい理論ではなく、行政の「いろは」である。
ウ したがつて、本件支出は、違法性を認識したうえでなされたものであつて、故意があるといわねばならない。
エ 被告は、本件支出に関し、補正予算が町議会で議決されていること、決算の承認があつたこと等を理由に、被告には故意・過失がなかつた旨主張するが、本件支出のほとんどが補正予算議決の前になされていることから、被告の故意・過失を補正予算議決の段階で議論する余地はなく、また決算承認により被告の故意・過失を阻却するものでもない。被告は、長年にわたり町の首長として行政に携わつてきた者であるから、本件のような支出が許されないことは知つていたものである。
第三 証拠〈省略〉
理由
第一争いのない事実
請求原因1の事実、同4のうちいわゆる狭山裁判の内容がおおむね原告ら主張のとおりであること、同6(一)のうち南民協の目的及び組織が原告ら主張のとおりであること、同6(二)のうち各町において町民協が南民協と同様の趣旨で設立されたこと、同7前段の事実、同8(二)ないし(五)の各(1)の支出の事実、同12の事実はいずれも当事者間において争いがない。
第二被告の本案前の主張について〈①事件と同一のため、省略〉
第三本案について〈省略〉
一本件の背景事情等〈省略〉
二事件の発生及びその概要〈省略〉
三本件支出の適法性の有無
1 南民協関係の支出について(別表1)
(一) 被告が、南民協に対し別表1の支出をしたことは当事者間に争いがない。
(二) 〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 南民協の前身である南但民主化促進連盟は、水平社運動の伝統を受け継ぎ、部落の完全解放を目指して昭和二三年に設立され、その後南民協(南但民主化協議会)と名称は変つたものの、一貫して自由と平等の精神に従つて基本的人権を尊重し、根強く残つている部落差別解消のための努力をしてきた。
この間、昭和四〇年八月一一日には同和対策審議会の答申が出され、同四四年には同和対策特別措置法(昭和四四年法律第六〇号。以下同対法ともいう。)が、時限立法とはいえ、制定施行され、南民協も右措置法をより具体化すべく部落解放に向つて努力してきた。
(2) ところで、南民協の目的は、憲法一四条の理念に基づき、人権を尊重し自由と平等の精神に従い、地域における差別を除去し、もつて明朗で平和な社会の建設に寄与すること(南民協規約二条)であり、右目的を達成するために、①差別意識に対する啓蒙、民主化の促進、②同和行政、同和教育の推進、③各種の実態調査、研究と資料の整備、④その他目的達成に必要と認める事業(八鹿高校事件後の昭和五〇年九月二六日に施行された南民協の規約によれば、右事業の①及び②は、①同和対策推進のための連絡調整、②同和問題に対する住民意識の啓蒙、と改正されている。)を行う(同規約三条)としている。そして、その組織も、養父郡(養父町、八鹿町、関宮町及び大屋町の四町)、朝来郡(山東町、和田山町、朝来町及び生野町の四町)、美方郡東部(美方町及び村岡町の二町)の各町行政当局者、町議会、町民主化協議会、各関係機関並びに学識経験者(昭和五〇年九月二六日に施行された南民協の規約によれば、各町行政担当者、町議会ならびに関係機関および学識経験者と改正されている。)をもつて組織するとしている(同規約四条)。
なお、昭和四八年に部落解放兵庫県連が部落解放同盟に加盟し、さらに南但支連協が結成されたことは前述のとおりである(理由欄第三の一1参照)が、右動きと歩を同じくするようにして、部落解放同盟兵庫県連合会南但協議会役員(相談員を含む。)七名及び部落解放同盟兵庫県連合会南但各支部長二二名が、昭和四八年六月五日から南民協の組織に加わつた。
(3) 次に、八鹿高校事件前後の南民協の財政状況は、おおむね以下のとおりであつた。すなわち、昭和四六年度(昭和四六年四月から翌四七年三月まで、以下南民協の会計年度は右に準じる。)の歳入金額は六〇万八三五八円で、うち南但一〇町の負担金合計が三八万三六〇〇円(歳入の約六三パーセント)、一〇九五世帯からの寄付金合計が二一万八九〇〇円(歳入の約三六パーセント)で大半を占め(残りは前年度の繰越金と雑収入である預金利息)、他方歳出金額は五九万一〇三七円で、歳出科目別に執行済の金額をみると、会議費一一万九一三〇円、総務費一〇万五三二〇円、事業費三三万四五八七円、負担金(部落解放兵庫県連に対する負担金)二万六〇〇〇円、雑費六〇〇〇円となつている。翌四七年度の予算(決算は証拠として提出されていない。)は、歳入金額(そのうち南但一〇町の負担金合計は七七万三六〇〇円)、歳出金額ともに一〇〇万二四二一円と前年度より金額が上昇しているものの歳入・歳出の仕方は、前年度と比較してほとんど差異はない(右金額の上昇は、当時の物価上昇がかなり加味されたものと推測される。)。
ところが、昭和四八年度の歳入金額は四九二万五〇九一円で、そのうちの四九〇万円(歳入金額の九九パーセント以上)が南但一〇町の負担金によりまかなわれている。他方歳出金額は四九二万三六〇〇円で、歳出科目別にその金額をみると、会議費一六万一二九一円、総務費七〇万七二七一円、事業費一一万七七七八円、部落解放同盟への繰出金三九二万円(歳出金額の約八〇パーセント)、雑費等である。右繰出金は、昭和四九年一月に発生したB差別文章事件に際し解放同盟が、糾弾等の活動を行う(具体的な使途は定かではない。)ために、解放同盟の強い要請で支出したものである。
さらに、いわゆる八鹿高校事件等の発生した昭和四九年度にいたつては、一般の歳入、歳出金額が大幅に増えたのみならず、多額の特別会計まで組まれた。すなわち、同年度の一般の歳入金額は一三八九万〇七〇四円で、そのうち一三八六万円(歳入金額の九九パーセント以上)が南但一〇町の負担金でまかなわれている。他方一般の歳出金額は一三八八万七九一六円で、歳出科目別にその金額をみると、会議費一八万八四一五円、総務費一〇〇万二八〇四円、事業費二〇万四三六〇円、部落解放同盟への繰出金一二四六万円(歳出金額の約九〇パーセント)、雑費等である。次に、同年度の特別会計の歳入金額は四五九八万三四一二円で、これも一般の歳入と同様、南但一〇町の負担金四五八三万円(その歳入金額の九九パーセント以上)でまかない、他方歳出金額は四五二三万九五八九円で、その内訳は維持運営費一九五七万四二四六円、学習会費二三六六万五三四三円、編集費二〇〇万円となつており、昭和五〇年九月二六日に開催された南民協の総会において提出された昭和四九年度歳入歳出決算書により右費用別に特別会計の歳出科目をみると、必ずしもその使途が定かではないが、次のように記載されている。
維持運営費
① 人件費 六七二万円
闘争本部専従者四人の諸手当その他臨時職員手当
② 維持費 二六一万六三六四円
闘争本部運営費(光熱水費、電話、郵券、事務所借上料他)
③ 需用費 三八五万四一九二円
消耗器材、印刷製本その他
④ 会議費 一七四万三一四三円
闘争委員会、役員諸会議費用
⑤ 旅費 一一万三六八五円
役員連絡旅費
⑥ 備品費 二八三万七九八〇円
各種器具(電子コピー、輪転機、ビデオ、マイク他)購入費
⑦ 広報活動費 七一万三二七五円
広報資料印刷
⑧ 雑費 九七万五六〇七円
借入金利子、仮車庫改造費他
学習会費
① 青年学習会費 一九〇四万八九二九円
青年部活動費用弁償、その他行動費用
② 学習器具費 六六万一四一四円
活動に伴う諸器具(テープ、フィルム他)費
③ 支部学習会費 三九五万五〇〇〇円
支部員活動費用弁償他
編集費
① 印刷製本費 二〇〇万円
B差別文章事件闘争記録編集に関する諸調査、資料作成費用
なお、このほか同年度においては、八鹿町へ三九六万〇七六五円、町村会へ一三三万九二三五円の返戻金が必要であるとして、五三〇万円の臨時負担金が定められている。
右のような昭和四九年度の決算につき、南民協の監査報告は、①一般会計については、決算額に占める繰出金の割合が89.7パーセントで適当でないとし、②特別会計については、昭和四九年一月のB差別文章事件の発生にあたり、南但支連協の要求を全面的に受け入れ、部落解放運動を支援し、部落の完全解放をすみやかに達成することを決意する旨の南民協の声明がなされ、多額の経費があてられたとし、昭和五〇年九月現在なお幾多の問題を残していることははなはだ遺憾で、所期の目的を達成するように今後一層の努力を望む、としている。
最後に、昭和五〇年度の歳入歳出予算額(決算は証拠として出ていない。)は、いずれも一八五万円で、歳入のほとんどは南但一〇町の負担金でまかなわれ、他方歳出は、会議費一六万円、総務費一三八万円、事業費二七万円、雑費三万円、予備費一万円となつており、昭和四九年度の歳出にみられた繰出金は見当たらない。
(4) このように、昭和四九年度の南民協の財政状況は、例年になく異常な内容であつたが、その間の事情はおおむね次のとおりである。
昭和四九年一月に、兵庫県の中堅幹部職員Bが、かねてから同和部落の女子高校生と交際中の長男に宛てて、同和部落を誹ぼうする内容の手紙を出していたとして、解放同盟等が問題視するいわゆるB差別文章事件が発生したが、南但支連協は、右Bの糾弾活動は勿論必要であるが、それとともに、同人のように県の幹部職員が時には同和教育の講師として差別問題を論じながらも、私生活の面では徹底した差別者となることは、従来における行政担当者の同和問題に対する取組の甘さに由来するものであるから、行政機関への差別確認(行政点検)が必要であるとして、右Bに対する糾弾会及び確認会並びに行政点検の費用三〇〇〇万円を南民協に要求した。これに対し、南民協は、いわゆる拡大役員会(その構成は、町長、町議会議長、教育長、同和対策常任委員会の委員長、校長、町役場の担当者等のほか、南但支連協の会長Dも南民協の理事として参加していた。)を開いて協議した結果、南但一〇町においても、部落差別の実体の理解が十分でない者については、確認会或いは糾弾会が最高の学習の場であるとの認識の許に、Bに対する糾弾会及び確認会を行政当局の内部における差別意識を徹底的に排除し同和問題の理解を根本的に深める学習及び行政点検の場としてとらえこれに参加し、Bに対する糾弾会及び確認会に伴なう所要額及び解放同盟の経常費用の一部を負担することを決定し、同年六月六日開催の南民協定期総会で繰出金一二四六万円の支出を承認し、解放同盟に対し支出したが、右金員がその後どのように使われたかは必ずしも定かではない(なおその支出の時期からすると、朝来町から南民協に対する別表1(1)の支出は、右繰出金の支出に充てられるためなされたものと推認できる。)。
右定期総会後、解放同盟により行政確認会が開催されたが、B糾弾会や行政確認会がそれ程開催されないのに、一般住民の差別事象や教育者に対する確認会・糾弾会が盛んに行われ、これらの確認会が確認会を呼び確認会が糾弾会に発展するなど予想外に広がる勢いを見せたので、当時の南民協会長岡村勝文は解放同盟に対し、再三、B及び行政内部の差別意識の点検・確認・糾弾の範囲に活動を留め早期に決着を付けるよう求めたけれども、解放同盟はその既に実施している活動こそが基本でありその後に岡村の求める方向に進むと述べた。しかし、事態は右岡村の望む方向には進展しなかつたばかりか、昭和四九年度に至つて、右D及びCから、B糾弾学習会、糾弾活動費、行政総点検、動員費、行動費、独自の研修会費等の名目で、八〇〇〇万円を超える金員の請求があつたが、南民協の岡村勝文会長は、右内容からして解放同盟の請求が無限に広がるおそれがあり、またそもそも南民協の主たる目的である部落差別解消についての啓蒙、啓発、連絡調整を越えたものと理解して、南民協の内部に便宜設置された南但一〇町の町長会で対応するようにした。そこで、右町長会の代表(右岡村勝文他一名)は、行政点検闘争の費用をこれ以上負担できずB差別文章事件ないし学習会に限り費用を負担するから半額の四〇〇〇万円にするように解放同盟の右D及びCを説得した結果、右四〇〇〇万円に糾弾会活動の記録製作の費用として五〇〇万円を加え計四五〇〇万円の経費を出すことで合意が成立した。ただ、支出の形式は、南但一〇町に関連していることから、南民協からの支出という形式を採用し、前記認定の昭和四九年度特別会計歳出金額四五二三万九五八九円が、右合意の結果支出された金額(朝来町については別表1(2)(3)の金額)に該当する。そして、解放同盟に支出された金員の使途は、解放同盟の報告に基づき、前記認定の「維持運営費」「学習会費」「編集費」とされているが、町長会ないし南民協自らその使途を確認してはいない。南但一〇町の町長会は、右の膨大な支出が県職員の行動に原因し、かつ各町の財政を圧迫して他の施策を遅らせるところから、昭和四九年七月五日付けで、兵庫県知事宛てに、抜本的な財政援助を求める要望書を提出するなどの運動をし、後日特別地方交付税の交付を受けて財政的な困難を乗り越えることができた(その詳細は後記四3のとおりである)。
なお、右四五二三万九五八九円の支出につき、南但一〇町長会は、昭和五〇年七、八月ころ八鹿町民会館において、解放同盟とは縁を切ることを条件に、不本意ではあるが八鹿高校事件等の終戦処理としてその支出を認めざるをえないとの合意を取り交わしている。
最後に、南民協の昭和四九年度の五三〇万円の臨時負担金であるが、これは、八鹿高校事件に関連して解放同盟員(形式的には当時の共闘会議参加者であるが、実質は解放同盟員)が八鹿町内で行政払、町払と称してつけで購入した物資等の代金が未払のままで放置され商店主らに被害を与えていたので、南但一〇町が八鹿町内の商業者らに迷惑をかけないよう後始末の意味で、支払つたものとか、日本赤十字社の緊急物資が八鹿高校差別教育糾弾闘争参加者により持ち出されていたので、その補充のため支払つたものとか、八鹿町及び和田山町にあつた右糾弾闘争本部がCらの逮捕後も残されていたところ、解放同盟を主体とする八鹿高校差別教育糾弾闘争共闘会議が右闘争本部の設置及び維持に関して生じた債務を支払いできないため右闘争本部を解散できないというので、その解散をさせるために支払つたものである。右支出の決定は、南但一〇町の町長会で決定したもので、南民協の会計に入れているのは、単に形式にすぎない。そして、昭和五〇年三月一〇日付養父郡町村会事務局長差出関係各町長宛「八高共闘関係経費概要調書について」と題する書面(甲第四号証の三)によると、その支出の内容は、八鹿高校事件発生後その年の一二月末までの支出分(八鹿共闘本部扱)は、印刷製本一一七万三一〇〇円、消耗品六二万〇三五八円、備品三六万九六二〇円、役務二八万四七〇四円、燃料一一万八九六一円、食料二二万四五五〇円、借上料二四万五〇八五円で、翌昭和五〇年一月以降の支出分(和田山闘争本部扱)については、消耗品一八万六八四八円、光熱費九五〇〇円、役務一三万六二九五円、食料五六万五七五〇円、行動費二五万二六一〇円、旅費一三万五〇〇〇円、人件費八九万円、備品八万五五〇〇円である(合計約五三〇万円)。
(三) そこで、まず別表1(1)ないし(3)の支出が、地方自治法二三二条の二に定める「公益上の必要性」を有しているかどうかにつき検討する。
(1) 地方自治法二三二条の二は、普通地方公共団体が寄付又は補助をする権限を有することを定めるとともに、右の寄付又は補助は、その公益上必要がある場合にのみ限られることを定めているのであるから、当該地方公共団体は、右の公益上の必要があると認定するときには、その裁量により、寄付又は補助をすることができる。
補助金の支出が「公益上必要ある場合」にあたるかどうかについては、第一に、普通地方公共団体の収入は、まず地方自治法二三二条一項記載の経費に優先的に支弁されるべきものであるから、これに属しない寄付又は補助は、右経費に遅れて普通地方公共団体の財政に余裕のある場合に始めてこれをなしうるものであつて、寄付又は補助の公益上の必要性の判断には、当該普通地方公共団体の財政上の余裕の程度を考慮しなければならない。
また普通地方公共団体が特定団体の事業活動の経費を補助することが公益上必要であるか否かは、右事業活動が果すべき公益目的の内容、右目的が普通地方公共団体の財政上の余裕の程度との関連において、どの程度の重要性と緊急性を有するものであるか、右経費補助が公益目的実現に適切(合目的性)かつ有効(有効性)な効果を期待できるか、他の用途に流用される危険がないか、公正、公平など他の行政目的を阻害し、行政全体の均衡を損なうことがないかなど諸般の事情を総合して判断すべきであり、そのうえで公益上必要な場合に該当する事実がなく、又は右認定が全く条理を欠く場合には、右補助金の支出は違法である。
そしてさらに、補助金支出が、目的違反、動機の不正、平等原則、比例原則違反など裁量権の濫用・逸脱となるときには、右補助金支出は違法といわなければならない。
(2) ところで、同対法は、すべての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念にのつとるものであり、「国及び地方公共団体は、同和対策事業を迅速かつ計画的に推進するように努めなければならない。」(第四条)とし、また「同和対策事業の目標は、対象地域における生活環境の改善、社会福祉の増進、産業の振興、職業の安定、教育の充実、人権擁護活動の強化等を図ることによつて、対象地域の住民の社会的経済的地位の向上を不当にはばむ諸要因を解消することにあるものとする。」(第五条)とし、その施策として、①対象地域における生活環境の改善を図るための措置、②対象地域における社会福祉及び公衆衛生の向上及び増進を図るための措置、③対象地域における農林漁業の振興を図るための措置、④対象地域における中小企業の振興を図るための措置、⑤対象地域の住民の雇用の促進及び職業の安定を図るための措置、⑥対象地域の住民に対する学校教育および社会教育の充実を図るための措置、⑦人権思想の普及高揚など対象地域の住民に対する人権擁護活動の強化を図るための措置、⑧その他第五条の目標を達成するために必要な措置などの広範な措置を講じることを定めている(第六条)。
これらの①ないし⑥の措置は、対象地域における経済力の培養、住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与するものであるが、真の意味の解放には、これらの施策とともに心理的差別の解消が必要でありそのためには⑦の措置が重要であり、したがつて、心理的差別の解消のための施策の実施も、他の多くの前記施策の実施と並んで、普通地方公共団体の果たすべき公益目的の一つということができる。しかしながら、右施策実施のための補助金支出についても、前記(1)のとおりの制約を免れることができないことは明らかである。
(3) 以上のところを別表1(1)ないし(3)の各支出につき検討すると、右支出は、部落解放同盟の行政点検闘争が、行政当局の内部における差別意識を徹底的に排除し同和問題の理解を根本的に深める効果を有するとの見解の許にその活動経費を援助する目的を有するものであるところ、行政当局の内部における差別意識の徹底的排除と同和問題の理解を根本的に深めること自体は、行政の責務であり公益に反するものではないということができる。
しかし、行政当局の内部における差別意識の徹底的排除と同和問題の根本的理解のためだけの目的ならば、本来それは行政の内部の問題であるから、朝来町においてもこれを部落解放同盟に委ねることなく、深刻な差別の体験者を講師ないしは指導者として招き行政担当者に対する講習会を開くなど、自らの責任でより直接的で費用も低廉で効果的な方法を検討採用して実施することにより、町の理事者や職員に対する同和教育の徹底を図ることができた筈である。
それにもかかわらず、その当時十分な組織と経験を有しないままに、他の組織との間の対立などの問題を抱えながら、急速に活動を拡大しつつある部落解放同盟に、前記のような行政当局の内部における差別意識の排除と同和問題の理解を深める業務を委託することが、有効かつ適切であつたものとはたやすく解することができない。そればかりか、部落解放同盟との間に南民協を通じての活動経費の補助を約した当時の朝来町の財政及び行政全体からみて南民協に対する右支出が均衡を失つていたことなどからして、右支出は、本来の目的実現のためには、不適当であるしまた最小限度必要な手段ということもできず、社会観念上著しく妥当を欠くということができるから、公益上必要とはいえず、違法であるといわなければならない。
特に別表1(2)(3)の支出は、行政当局の内部における差別意識の排除と同和問題の理解を深める目的や、南民協の主たる目的である部落差別解消についての啓蒙、啓発、連絡調整を越えたものであり、部落解放同盟の活動それ自身の経費援助ということができるところ、部落解放同盟の前記活動が有する公益性の程度とその緊急性、重要性、補助金支出の有効性、その使途についての有効な監督が当初から期待できなかつたこと等の諸事情を総合して検討するときは、右支出は、部落解放同盟の運動と行政との立場を区別しそれぞれの責任を明確にしたうえで、協力すべきは協力して同和問題の早期解決を図るべき行政目的を離れ、両者の立場を混同している点で、社会観念上著しく妥当を欠き、公益上の必要性があるとはいえず、より違法性が高いものといわなければならない。
したがつて別表1(2)(3)の支出はいずれも違法である。
(四) 最後に、別表1(4)の支出であるが、右支出が臨時負担金であることから、右同様、南但一〇町長会の決議によるものを形式的には南民協を通じているが、実質的には被告が八鹿町を介して八鹿町内の商業者等に別表1(4)の支出をしたことになる。そして、前記認定によれば、右支出は、八鹿高校事件等の終戦処理として、八鹿町内の商業者等に迷惑をかけないため解放同盟員等とか八鹿高校差別教育糾弾闘争共闘会議の構成者(朝来町は構成者ではない)の未払代金を立替払いしたものであり、朝来町が右商業者等となんら契約関係もなく、立替払いをする法令上の根拠もなく、その反面本来の債務者が事実上支払義務を免れるという不公平な結果を生むのであるから、別表1(4)の支出が公益性がなく違法であることは明らかといわなければならない。
2 事業費・備品購入費の支出について(別表2)
(一) 被告が、別表2記載のとおりの支出をしたことは当事者間に争いがない。
(二) 〈証拠〉を総合すると、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 別表2(1)の支出について
右支出は、解放同盟の要求に基づき朝来町が、ブルーバードUバン一台を購入した際、納入者杉谷準之祐に支払つたものである。右金額の内訳として、車輌代のほか放送設備一式、電装関係等の費用が含まれており、その支出決定書には「解放車」と明記している。朝来町は、右自動車を同和問題に対する啓蒙、啓発活動に使用するとして購入したが、現実の管理は、後記トヨタハイエースと同様朝来町所有でありながら、解放同盟があたつていた。
(2) 別表2(2)の支出について
右支出も、前項同様解放同盟の要求に基づき朝来町が、トヨタハイエース一台を購入した際、納入者川崎自動車に支払つたものである。右金額の内訳として、車輌代のほか拡声装置一式取付け、車上演説台製作一式、電装装置一式、全面塗装、座席位置変更等の費用が含まれており、支出決定書にも「解放車」と明記している。朝来町は、右自動車を同和問題に対する啓蒙、啓発活動に使用するとして購入したが、朝来町所有でありながら町行政に使う意図はまつたくなく、完全に解放同盟の管理にまかせていた。
(3) 別表2(3)の支出について
右支出も、前二項と同様の経過で、朝来町が学習会を徹底させるとして購入し、納入者兵庫三菱ふそう自動車販売株式会社に支払つたものである。支出決定書には、前同様「解放車」と記載されており、その外観はバスの前面に「甲支部」と記載し、車上にはマイクを取り付け「甲第一三七号証の「妄動と癒着」と記載している項目のの写真参照)、実質は解放同盟が独占的に使用していた(たとえば、当庁に当時係属していたC被告人らに対する監禁等被告事件(昭和四九年(わ)第七六八号等)いわゆる八鹿高校等の刑事事件の公判日に、神戸地方裁判所までの往復に利用していた。)。
(4) 別表2(4)の支出について
朝来町が、解放車スピーカーの増設及び破損による取替えのための費用をNSY企画室に支払つた(昭和四九年一二月二六日の請求に対し、昭和五〇年一月三一日に仮払いをしている。)ものであるが、その趣旨は当時、集会・屋外活動に必要であると判断して支出したものである。
(5) 別表2(5)の支出について
朝来町が、福祉会館前の掲示板一式の購入代金として納入業者のあわや金物店に支払つた(昭和四九年一一月二二日の請求に対し、同年一二月二八日に仮払いをしている。)ものであるが、同掲示板が、原告ら主張のような趣旨(請求原因欄8三参照)に使用されたとの証拠は見当たらないのみならず、その後八鹿高校事件等の発生から約一〇年余りを経過した今日に至るまで同掲示板がどのように使用されてきたかについての証拠はまつたくない。
(三) そこで、まず、別表2(1)ないし(4)の解放車三台及びスピーカーの購入費支出について検討するに、これら費用は、いずれも解放同盟の要求に基づき朝来町が支出したものである。被告は、右各支出は、同和行政を推進するために必要なもので、同対法に基づく支出であるというが、右各支出はF宅包囲監禁事件後から、八鹿高校事件発生前後にかけての、既に解放同盟の活動が相当激しくなつていた時期になされ、前記自動車は右活動に使用される計画で購入されたものと推認できるところ、当時の状況からすると解放同盟の活動は既に同対法の目的を有効適切に達成すべき行政の目的からは逸脱していた疑いがあること、朝来町が支出に際し、解放車購入の趣旨・目的を十分検討した形跡は認められず、朝来町所有でありながらその管理を専ら解放同盟にまかせ、解放車自体にも前記認定のような種々の装置を備えるなど、解放同盟にのみ特権的な利益を与えるものであること、まして、大型バスである解放車の購入にいたつては、その購入時期・使用経過等〈証拠〉によれば、朝来町の広報において、八鹿高校差別教育糾弾闘争朝来町共闘会議は昭和五〇年一月一一日に同年の闘争方針の一つに日本共産党と癒着した司法権力との闘いを強め法廷闘争を強化するとしている。)からして右刑事事件の公判闘争に備え、購入したことすら推認できること(スピーカーの購入についてもその購入時期からして、右刑事事件の公判闘争を中心とする闘争に備えたものであることは推認できる。)などを総合すると、前記各自動車の購入が、地方自治法二三二条の二に定める「公益上必要のある場合」になされたとするには重大な疑問があるといわざるを得ない。
次に、別表2(5)の掲示板購入費の支出については、前記認定によれば、右支出が解放同盟の闘争費用の肩代りと認定することはできず、したがつて違法ということはできない。
3 甲支部活動費の支出について(別表3)
(一) 被告が、別表3記載のとおりの支出をしたことは当事者間に争いがない。
(二) 別表3(1)ないし(32)、(34)及び(35)の支出について
(1) 右支出の法律上の根拠につき、まず検討する。右当事者間に争いのない事実によれば、支出名目は、①甲支部専従者の賃金(昭和四九年一〇月分から翌五〇年三月分まで)、健康保険料・厚生年金(昭和四九年九月分から翌五〇年三月分まで)、社会保険(昭和五〇年三月分)、失業保険(昭和四九年八月分から翌五〇年三月分まで)、年末手当、②解放車専従運転員の賃金(昭和五〇年一ないし三月分)、失業保険・社会保険(昭和五〇年一、二月分)、大型バス運転手当(昭和五〇年二、三月分)、③夜間管理人補助、④支部活動費賃金ないし交通費補助、⑤その他右専従者の賃金・掛金の改定による差額となつていること、支出先は、ほとんどが解放同盟甲支部長(当時はC)で、唯一つ昭和四九年八月から翌五〇年一月分までの甲支部専従者失業保険のみ兵庫県労働保険会計となつていること(これは支出時期が昭和五〇年三月三一日となつていることから、一括して直接支払つたものと推認できる。)、支出科目も、同対費中の「負担金・補助金・交付金」となつているほか、〈証拠〉によれば、右甲支部の専従者・解放車専従運転員はいずれも朝来町職員ではなく(したがつて勤務関係についての監督も受けない。)、その賃金等は解放同盟が支払うべきものを朝来町が支払つていたこと、夜間管理人は解放同盟甲支部が福祉会館内の一室を使用するようになつて配置されたが、専ら解放同盟甲支部員がこれにあたるものとし、その補助金は解放同盟甲支部長あてに支払われたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右によれば、被告の右専従者及び専従運転員に対する支出は、朝来町職員に対する賃金等の支払でないことは明らかであり、夜間管理人についても朝来町とどのような契約関係にあるか定かではなく、右認定事実からしてその支出が単に名目的なもので、朝来町の解放同盟甲支部に対する支出であると推認するに十分である。そうすると、右支出はいずれも解放同盟甲支部に対する補助金に該当するといわなければならない。
(2) そうすると、右金員の支出には、地方自治法二三二条の二に定める「公益上の必要性」が要求されるので、以下その有無につき検討する。
被告の主張によれば、右支出金は、同対法の制定に伴う「同和対策長期計画」により建設された隣保館(朝来町では「福祉会館」と呼ばれているので、以下朝来町の場合は右用語例に従う。)における町の同対室の出先機関としての業務の円滑な推進をはかるため、右福祉会館内に解放同盟甲支部の事務局を置いたが、右の同対室の出先機関としての業務が多忙となり、町職員の増加の必要が生じたのに、その補充が人件費の増大や長期化を招くおそれがあるところから、解放同盟甲支部の専従者を朝来町の業務に従事させる一方同町の臨時職員に準じて待遇することにした結果、右専従者等に支払つた賃金等であり、実質的には町の業務を遂行する者に対する支出であり、かつ町の解放行政の目的にもかなうものであるから、違法ではないというのである(事実欄第二の五3(二)(3)参照)。
なるほど、〈証拠〉によれば、同対法の制定に伴い、被告主張の「同和対策長期計画」が昭和四四年七月八日に閣議で了解され、その内容の一つとして隣保事業の充実のため、隣保館の整備等が計画されている事実が認められる。そして、被告主張のように、朝来町の福祉会館が右隣保館に該当し、朝来町の同和対策室の出先機関としての機能を有し、その業務を解放同盟甲支部の事務局に委託していたとしても、右支出に係る賃金等を支払つていた期間における解放同盟甲支部(これはあくまで民間団体である。)の専従者が、果たして右福祉会館における町の業務に従事していたか否かの実態に則して、被告の公金の支出が公益性を有していたかどうかを判断しなければならないのは当然である。
よって検討するのに、右支出の期間が昭和四九年一一月一一日から翌五〇年三月三一日までであることは当事者間に争いがなく(別表3「支出時期」欄参照)、右期間は、前記認定(理由欄第三の一、二参照)のように、昭和四九年九月に発生した壱事件以降、同年一〇月のF宅包囲監禁事件、生野駅・南真弓公民館事件、新井駅事件、青倉駅前事件、大藪公会堂事件、同年一一月の八鹿高校事件等解放同盟甲支部が中心となり右解放同盟に反対する勢力と対峙し、確認・糾弾等激しい活動を行い、同年一二月には解放同盟甲支部の支部長C等が逮捕され、翌五〇年に起訴されるにいたる時期である。このような活発な活動の時期に、解放同盟甲支部の専従者において、被告が主張するような福祉会館の業務(同和地域の環境整備、解放行政の地区内の拠点としての実態調査、生業資金・住宅貸付資金・生活保護の受付窓口業務、各層・各団体を対象とする学習会、小中学校の学力推進学級の計画・立案、学習会等の会場設営等)を十分に遂行し、その行政効果を挙げるような町の業務に従事したものとは到底認めることはできず、朝来町の同和対策室の出先機関としての機能を果たしたものと認定することはすこぶる困難であるといわなければならない。してみると、そもそも右支出に明確・具体的な目的があつたとは考えられず、町の行政とは別個の民間団体である右甲支部の独自の活動に対してのみ独占的、特権的に援助する結果となるにすぎない。
したがつて、右支出は地方自治法二三二条の二所定の公益上必要な場合にあたらず違法な支出といわざるをえない。
(三) 別表3(33)の支出について
(1) 被告が、昭和四九年一二月三日解放同盟甲支部長あてに、「支部活動費(八鹿闘争)」の名目で二四万三〇〇〇円の右支出をしたことは当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉を総合すれば、右支出についての支出決定書(兼支出負担行為書)(甲第五〇号証の一)には支出負担行為の理由を「支部活動費(八鹿闘争)」、その内容を、①C 八×三〇〇〇=二万四〇〇〇、②Rほか九人 一〇×三〇〇〇=三万、③Sほか二二人 二三×三〇〇〇=六万九〇〇〇、④Tほか二五人 二六×三〇〇〇=七万八〇〇〇、⑤Rほか一三人 一四×三〇〇〇=四万二〇〇〇と記載されていること、解放同盟甲支部は昭和四九年一二月五ないし六日付けで、右金員を受領していること、その領収書(甲第五〇号証の二ないし六)には、右支出負担行為に対応するように、①支部長活動費二万四〇〇〇円、②昼間専従員弁償費三万円、③活動費(八鹿高校)六万九〇〇〇円、④同じく七万八〇〇〇円、⑤同じく四万二〇〇〇円と記載されていることの各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 右によれば、右二四万三〇〇〇円の支出は、解放同盟甲支部の支部長をはじめ支部員が、八鹿高校闘争を行うにつき支払つた日当ないしそれに準ずるものであるといわざるをえない。
右支出につき、被告は、同和問題の早急な解決は国・地方公共団体の責務であり、八鹿高校事件は、同対法の趣旨に反する教育方針を有していた教師集団に対し、二一〇団体が共闘を組んで同校の正常化を求めたものであるから、その行動のための一定枠内での費用弁償は、同対法上正当な支出であると主張する(事実欄第二の五3(二)(3)イ参照)。
なるほど、同対法には、同和対策事業の目標(同法五条)、国民・国・地方公共団体の責務(同法三、四条)、右目標達成のために国・地方公共団体が果たすべき施策(同法六、八条)がそれぞれ掲げられているが、同和問題解決のために暴力等あらゆる手段に訴えることまで認めるものではなく、社会的に相当と認められる範囲にとどめられるべきことは当然のことである。
本件における八鹿高校事件の内容は、既に述べたような内容であり(理由欄第三の二2参照)、その糾弾行為は、ハンガーストライキをしている解放研生徒を救うという直接的意図があつたとはいえ、明らかに社会的に相当な範囲を逸脱し、同対法が予想する状況でないことは明らかである。被告は、八鹿高校教師集団が県教育委員会ないし八鹿高校の管理職の意見に従わず、解放研を認めないという同対法の趣旨に反する教育方針を有していたとか、共闘団体が二一〇を数え、住民全体の行動が八鹿高校事件であつたと主張するが、解放同盟の影響を受けた解放研設置を認めないことが同対法の趣旨に反すると断定することはできず(たとえば、〈証拠〉によれば、県教育長は、昭和五〇年三月一四日付けの通知で、解放研については適切な指導を十分せず、反省すべき点が少なくないことを自ら認めている。)、また八鹿高校事件が住民全体の行動であつたということもできないことは、昭和四九年一一月二八日に朝来町が主催し、町民数百人が参加した八鹿高校事件報告会で暴力はなかつたと虚偽の報告がされ、翌五〇年一月一八日に当時の朝来町行政に反省を迫る「朝来町を明るくする会」の第一回集会が開かれ(原告大谷猛本人尋問の結果により認める。)、被告の町長としての任期が切れた昭和五三年四月から解放同盟と反対の立場のFが朝来町長に就任していること(証人Fの証言により認める。)等からして明らかである。
しかも、右二四万三〇〇〇円の支出の決定は、Cらが八鹿高校事件で兵庫県警に逮捕された昭和四九年一二月三日になされており、八鹿高校事件の内容が、同対法の趣旨から大きく掛け離れたものであることを十分推知せしめる状況であつた。
このように、右二四万三〇〇〇円の支出は、八鹿高校事件において暴力行為を行つた者らに対し、その日当等の公金をもつて支払つたものというべく、その支出が違法であることは明らかといわなければならない。
(四) 別表3(36)の支出について
(1) 被告が、昭和五〇年二月三日付けで、解放同盟甲支部長に対し、昭和四九年一〇月二〇日から同月二六日までのF糾弾闘争における支部活動費として、二五〇万円の支出をしたことは当事者間に争いがない。
〈証拠〉によると、右二五〇万円の支出手続上では、支出負担行為の理由は一〇月二〇日から二六日までの間のF糾弾闘争における支部活動費とされているが、その歳出予算の執行上の区分は、同対費(目)、貸付金、生業資金(節)とされていてその間に矛盾があるにもかかわらず、当時の朝来町の助役椿野耕三や被告も右矛盾につき十分合理的な説明ができず、朝来町にも解放同盟甲支部の右支部活動費の内容を明らかにする書面はなんら残されていないことが認められる。
右の事実関係からすると、右二五〇万円の支出は、特別の具体的な支出目的はなく、解放同盟甲支部に対し、F糾弾闘争の経費を一般的に補助したものと推認することができる。
(2) 被告は、右支出はFに対する確認糾弾のための経費であり、右確認糾弾は、同対法の目的に真向から対立し行動するFにその是正を求めるもので、一定枠内で費用弁償することは同対法上の正当な支出である旨主張する(事実欄第二の五3(二)(3)ウ参照)。
しかしながら、朝来闘争は、前記のとおり、部落解放運動の中心的存在である解放同盟が自己の運動を批判するFら日本共産党及びこれと連携する者に対抗する活動であるということができるところ、日本共産党及びこれと連携する者が同対法の目的に反対しているのではなく、これらの者と解放同盟との対立は主として部落解放同盟の確認会、糾弾会の方法の適否を巡つてのいわば部落解放の方法論上のものに過ぎないと解されるから、そのような問題の解決は、その一方の方法が他方よりも明らかに公益性において劣る場合を除き、確認会、糾弾会の実施主体ではない朝来町のような普通地方公共団体の果すべき同対法の目的実現その他の公益とは本来関係がないものといわねばならない。ところが、Fらの主張する方法が解放同盟側の方法より明らかに公益性において劣るということはできないから、特段の事情のない限り、朝来町が解放同盟側のみに補助することは、必ずしも公益に合致するともいえないばかりか公平を欠くことにもなりかねない。そして、Fらの言動が解放同盟との激しい対立を引き起し朝来町の解放行政に悪影響を与えていたとしても、本来同対法の目的実現方法についての文書活動に端を発した対立につき、これを実力で解決しようとする解放同盟の側の活動を補助することに格別の公益上の具体的必要性はないといわねばならない。
被告はこの点に関し、Fに対する確認糾弾活動の正当化性を主張し、かつ対象地域の住民の劣悪な経済生活環境からして、解放同盟の運動に対する行政による援助の必要性を強調するが、なるほど同人の作成配布した文書のなかには、差別意識を助長する結果をもたらすおそれのあるものが見受けられる(この事実は、〈証拠〉によりこれを認める。)ものの、このような差別解消のための路線問題解決のための大衆運動は、反対する他の大衆運動を誘発するだけで、その一方だけを経費援助することは、普通地方公共団体の実現すべき公益とは関係がないものといわなければならない。しかも、F糾弾闘争の内容は、既に述べたとおりであり(理由欄第三の二1参照)、その確認糾弾行動が社会的にみて相当とされる範囲を逸脱していることなどからすると、F糾弾闘争の公益性には重大な疑問があり、たとえそこに若干の公益性を見出すことができるとしても、その重要性、緊急性の程度、並びに右二五〇万円の支出決定が、Cらが壱事件・F宅包囲監禁事件で兵庫県警に再逮捕された昭和五〇年一月二二日(〈証拠〉により認める。)以降にされていること、その当時の朝来町の財政状態、補助の適切有効性、比例原則等の諸般の事情を考慮すると、二五〇万円もの多額の補助をすることは、地方自治法二三二条の二に定める公益上の必要がある場合にあたらず、その支出が違法であることは明らかといわなければならない。
(五) 別表3(37)の支出について
(1) 被告が、昭和五〇年二月三日に解放同盟支部書記長あて「同和学習活動費」の名目で一〇〇万円の支出をしたことは、当事者間に争いがない。
(2) 被告は、朝来町として同対法にいう行政の責務・施策である部落開放のための各種学習会を行うに際し、事柄の性質上解放同盟支部の協力が必要であつたことから、そのための経費として、右一〇〇万円を解放同盟に支出した旨主張する(事実欄第二の五3(二)(3)エ参照)ので、以下右一〇〇万円の支出の趣旨につき検討する。
〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
ア 兵庫県警は、昭和四九年一二月二日に警察官、機動隊員約二〇〇〇人を動員して八鹿高校差別教育糾弾闘争共闘会議のC議長ら四名をいわゆる八鹿高校事件で逮捕し、右Cの自宅・解放同盟甲支部の事務所等を捜索し、右共闘会議のメンバー十数人に対しても同様の容疑で任意出頭を求め取調べを開始した。
イ 朝来町においては、昭和四九年一二月三日に全町の規模で各地区の同和学習会が開催されたが、その主な内容は八鹿高校事件においては暴力はなかつたというにあつた。
ウ 昭和四九年一二月一二日には八鹿高校事件に関連して、第二次の逮捕者が出たし、また相当数の人が警察・検察庁で取調べを受けた。
エ 翌一三日には、右一〇〇万円が同和学習活動費の名目で、解放同盟甲支部書記長Uあてに仮に支出されている(右仮の支出につき、当時の朝来町助役椿野耕三は、法津上の根拠のない便宜的な措置で、取扱いそのものは違法と認めている。)。
オ 解放同盟甲支部員らは、昭和四九年一二月一六日に行われた神戸地方裁判所の右逮捕者に対する勾留理由開示の法廷闘争のため、バスに乗り神戸地方裁判所に駆け付けたりしたが、神戸地方検察庁は、同月二四日にCら二名を八鹿高校事件(逮捕・監禁・傷害罪)で神戸地方裁判所に起訴した。
カ その間、朝来町内の解放同盟の活動を巡るものとして、例えば昭和四九年一二月一八日には新井地区において同和学習会の小集会が開かれたが、その内容は前記同月三日開催の同和学習会の内容と大差ないものであり、他方朝来町議会は、同月二七日に部落の完全解放に向け町民の理解徹底をはかり、解放同盟等との共闘の強化をはかる旨の解放行政に関する決議を採択している。
キ 昭和五〇年に入り、解放同盟甲支部を中心とする八鹿高校差別教育糾弾闘争は、法廷闘争を焦点とする新たな段階に入り、同年一月五日に開催された八鹿町民ホールでの集会、同月一一日に開催された朝来町内の朝来中学校体育館での集会においてその旨が闘争方針として強く打ち出されている。
ク このような状況下の昭和五〇年一月二二日に、兵庫県警は、C(保釈中)を朝来闘争事件に関連して再逮捕し、更に朝来闘争事件・八鹿高校事件等に関連して外六名を逮捕し、これら一連の事件で逮捕者は延べ一八名となつた。
ケ しかし、共闘会議に組する勢力は、一時には衰えず、例えば朝来町議会の上田副議長は、独り、朝来町議会が共闘会議と連帯することに反対したため、同町議会内で糾弾・暴行を受けるなどしたが、原告大谷猛らが、右共闘会議に反対して、同月一八日に「朝来町を明るくする会」の第一回集会(準備会)を開き、翌二月九日には同会会員の署名を始め、同月二四日に同会を発足させるなどし、共闘会議に対峙する行動をとつていつた。
コ 右一〇〇万円につき、正式の支出手続がされたのは、このような状況下の昭和五〇年二月三日である(この点は当事者間に争いがない。)。
(3) 右によれば、解放同盟甲支部が現実に右一〇〇万円を受領したのは昭和四九年一二月一三日であるが、その当時は、共闘会議の中心人物であるCらが逮捕され、同人らの活動は大きな痛手を受けたのみならず、はるばる神戸まで出向き法廷闘争等を余儀なくされるようになつたこと、当時、共闘会議関係者等がかなり逮捕され一連の事件の捜査が行われるであろうことは十分推測でき(事実その後の経過はこれを裏付けている。)右法廷闘争等は長期化が予測されたこと、このような闘争に多数の人数を動員するには当然かなりの経費が必要であること、しかも右一〇〇万円の支出は支出科目としては同対費のなかの「貸付金・生業資金等」として支出(別表3の注4参照)されながら、支出負担行為としては「同和学習活動費」となつており、その支出科目と支出負担行為との間に直接の関係があるとは到底認められないことなどからすれば、解放同盟甲支部からの右一〇〇万円の支出要求は、内実は右法廷闘争等の経費にあてるためになされたものと推認することができる。しかしながら、昭和四九年一二月三日当時朝来町においては、Cらが八鹿高校事件で逮捕された事態の中で、あらためて朝来闘争、八鹿高校闘争を含めて広く同和問題の意義の理解を深め正しい理解のうえに立つて新たな進路を検討するため、特に同和学習活動をする必要が存在したこともまた推認することができる。そして従来朝来町は、部落解放のための各種学習会を行うに際し、解放同盟支部の協力を得ていたのであるから、右時期において同町が解放同盟甲支部に対し、同和学習活動の経費の補助金として一〇〇万円を支出することは、公益上必要である場合にあたるものといわなければならない。
もつとも当時の朝来町内での同和学習の内容は八鹿高校の真相を隠すことに終始していることがうかがわれ、朝来町議会の副議長にいたつてはなおかつ激しい糾弾を受けるという状況で、被告が主張するような同対法に基づく同和学習を解放同盟甲支部が行うような状況ではなかつたことも十分推認できるところではあるものの、被告及び同町当局においては、右補助金が現実に支出された当時、これらの状況を十分把握できたとすることもできない。
そうすると、右一〇〇万円の補助金交付をもつて直ちに違法であるとすることはできない。
(4) 原告らは、右補助金支出につき手続的違法を主張するところ、前記(2)エのとおりの手続的違法の存在が認められる。
しかしながら、〈証拠〉によると、右補助金支出については昭和四九年度中に補正予算が成立し昭和五〇年一二月二四日には朝来町議会により昭和四九年度の一般会計決算の認定の承認の議決がなされたことが認められるから、右補助金支出についての手続的違法は、既に瑕疵が治癒され、適法となつたものといわなければならない。
4 旅費の補助金支出について(別表4)
(一) 被告が、別表4記載のとおりの支出をしたことは当事者間に争いがない。
(二) 別表4(1)及び(3)の支出について
(1) 狭山差別裁判闘争の概要については、既に述べたとおりである(理由欄第三の二3参照)が、さらに、〈証拠〉を総合すれば、右支出に関し以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
ア 別表4(1)の支出負担行為の理由は、一〇月三〇ないし三一日の狭山裁判闘争中支部内警戒要員二三名とされ、その活動明細として昼間勤務(三一日)二三人×三〇〇〇=六万九〇〇〇となつている。
そして、右支出については、昭和四九年一一月一四日付けで解放同盟甲支部長Cから請求がされ、翌一五日同人あてに支出されている。
イ 次に、別表4(3)の支出の支出負担行為の理由は、一〇月三一日狭山闘争参加経費(食事、通行料等)とされ、その支出明細は、①支部前渡金 二一万円、②運転手謝礼(三〇〇〇×八) 二万四〇〇〇円、③保険料 二万一〇〇〇円、④弁当代 一三万六〇〇〇円、六万八八〇〇円、一三万七六〇〇円、⑤電池代(八ミリ用) 五四〇円、⑥タクシー代 三八六〇円の合計六〇万一八〇〇円となっている。
そして、右支出については、昭和四九年一一月一二日付けで同和対策室長荒川進名義で請求がされ、同人あて七〇万円の支出がなされた後、昭和五〇年二月二一日に右支出明細に基づいて差引き九万八二〇〇円が右同和対策室に戻され、精算されている。
ウ ところで、解放同盟が主体となつて行なつていた狭山差別裁判闘争は、狭山事件捜査の際、部落民に対する差別的捜査があつたとして、裁判において当時のK被告人の無罪を勝取ることにあつたが、朝来町が、右闘争に関連して右支出をした趣旨は、国民的課題である部落差別解消を目指し、部落差別裁判を許さず、正しい裁判を求め、真実を見る、聞く等の行動のために支出したというものである。
(2) ところで、昭和四九年一〇月三〇ないし三一日には、全国的な規模で狭山裁判闘争が行われたが、右闘争に参加するため部落解放同盟傘下の甲支部員らが上京するための費用が別表4(3)であることは右事実からして明らかであり、また当時の南但馬地方は、F宅包囲監禁事件を中心とする一連の事件が発生していた時期で(理由欄第三の一、二参照)、騒然とした状況の余韻が残つていたことが推測され、別表4(1)の支出の内容・趣旨等からして、同支出は東京での狭山差別裁判闘争参加のため上京した甲支部員等の留守中、同支部内を警戒する必要があつたことから、その警戒していた支部員に対しその日当を支払つたものであることが認められる。
右各支出につき、被告は、当時朝来町の方針として狭山裁判の本質は部落民に対する差別裁判で、K被告人の無罪判決を求める運動を展開していたことから、同運動を推進するにつき事柄の性質上解放同盟と連帯することはやむを得ないことで、一定の枠内での補助は許されると主張する(事実欄第二の五3(二)(4)ア参照)。
しかしながら、普通地方公共団体の事務の内容は、地方自治法二条二項に定められ、同条三項の例示からして、普通地方公共団体が現に裁判所において審理されている事件につき個別具体的な裁判の内容にわたつてその当否を主張し、一定の内容の裁判を求める運動を展開することは、普通地方公共団体の事務の範囲を越えたもので、とりわけ同条一〇項一号によれば司法に関する事務は普通地方公共団体において処理できないとされていることからしても、このことは明らかである。そうすると、朝来町が、現に審理されている狭山事件につき一定の内容の裁判を求める運動の経費を解放同盟に補助するため右各支出をすることは、その目的が前項認定のとおりであつても、普通地方公共団体の事務の範囲を越えた司法に対する越権であり憲法秩序に反し公益を害するものといわざるを得ず、その支出が違法であることは明らかである。まして、別表4(1)の支出にいたつては、直接的には、甲支部内の警戒要員に対する日当の支出であり、このような支出が許される法令上の根拠はまつたくないばかりか、狭山差別裁判闘争の経費に属するのであるから、これまた違法というほかはない。
(三) 別表4(2)の支出について
(1) 〈証拠〉を総合すれば、右支出の支出負担行為の理由は、一〇月二一日から同月二六日までのF闘争専従要員四名の活動費費用弁償となつていること、その金額が七万二〇〇〇円であること、その明細は、四名(R、R1、R2、R3)×六日間×三〇〇〇円=七万二〇〇〇円となつていること、右支出については昭和四九年一一月一四日付けで解放同盟甲支部長Cから請求がなされ、翌一五日同人あて支出されていること、Rは、Cらと共謀のうえ、昭和四九年一〇月二二日午後五時三〇分ごろから同一〇時ごろまでの間、衆議院議員木下元二、兵庫県会議員前田英雄ほか一名を不法に監禁し、Cは右事実をもつて神戸地方裁判所から有罪判決を受け、またCらは、多数の解放同盟員らと共謀のうえ、右同日午後五時三〇分ころから同月二六日午前一一時四五分ごろまでの間、F方居宅周辺において、多衆の包囲と監視及び威圧により、右Fを不法に監禁したとの事実をもつて同裁判所から有罪判決を受けたことの各事実を認定することができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 右支出の経過からして同支出の趣旨は、F宅包囲監禁事件に際し四名の専従要員が六日間にわたり右闘争に参加し、そのための日当を支出したものと認めるのが相当である。この点、証人椿野耕三は、F闘争に参加したので支出したのではなく、甲支部活動費として支出したにすぎないと証言するが措信できない。
そうすると、前記別表3(36)の支出につき判示したとおり、F糾弾闘争を全体的に評価してもその公益性について重大な疑問があるばかりか、右日当支払期間である同年一〇月二一日から二六日までの解放同盟甲支部のF宅包囲監禁闘争活動には多分の犯罪性が見られるのであるから、右闘争で右期間中重要な活動をしたと見られる四名の専従要員の日当を支出することは、当時の町財政からみて、地方自治法二三二条の二に定める公益上必要がある場合にあたらず、違法な支出といわざるをえない。
(四) 別表4(4)の支出について
(1) 〈証拠〉を総合すると、朝来町の手続上、右支出の支出負担行為の理由は、U(和田山闘争本部詰支弁)、V(支部特別依頼支弁)とされ、右金額は合計九万三〇〇〇円とされ、右支出の明細は、Uについては昭和五〇年一月から右闘争本部に詰めていたことにより九万円、Vについては一日特別に依頼したとして三〇〇〇円の支出とされていること、右支出については、昭和五〇年二月六日付で解放同盟甲支部長Cから請求がなされ、同月一〇日に同人あてに支出されていること、右和田山闘争本部とは、八鹿高校事件に際しての共闘会議本部が当初八鹿町の町民センターにおかれていたのが、昭和五〇年に入り和田山に移り和田山闘争本部となったものであること、昭和五〇年一月一一日に、八鹿高校差別教育糾弾闘争朝来町共闘会議の昭和五〇年度八鹿高校差別教育糾弾闘争方針として、右闘争をさらに強化し、同校生徒に糾弾闘争の意義を徹底し、同校の差別教育の実態を全但馬住民に知らせること、この闘いを真の民主主義を願う全但馬住民と差別思想・差別教育の対決として位置づけること、日本共産党とゆ着した司法権力との闘い及び法廷闘争を強化すること、不当逮捕に徹底して抗議することが決定されたことの各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(2) 右によれば、別表4(4)の支出は、八鹿事件後、Cらが逮捕されたのちもなお、八鹿高校の教育正常化を求めて活動していた共闘会議の和田山闘争本部に詰めていた人に対し支払った日当ということができる。そして、右共闘会議の昭和五〇年に入ってからの活動内容の一部は、前述のとおりであり(理由欄第三の三3(五)参照)、法廷闘争を焦点とする闘争に入るようになつていたものということができる。
ところで本来右八鹿高校闘争は、県立高校内部における部落解放研究会設置の是非にかかる教師団と学校長又は県の教育行政機関との間の教育ないしは教育行政問題であつて、朝来町の地方自治の問題ではなく、朝来町の関与すべきものではない。さらに右闘争は、右の問題から発展した八鹿高校教師団に対する八鹿高校差別教育糾弾共闘会議との対立抗争となったが、右共闘会議側の活動は犯罪性が強く、これと考量するときはその公益性には重大な疑問があり、その一方当事者である右共闘会議側の要員の日当のみに補助金を支給することは、ますます行政の中立性、公共性に疑問を抱かせるものがある。してみると共闘会議側に対する経費援助が普通地方公共団体である朝来町の行政上実現すべき公益に属すると解するには、否定的とならざるを得ないというべきである。
そして、いわゆる八鹿高校事件の発生後の共闘会議の活動は、解放研設置の是非を巡る校内問題のほかに、部落差別解消を直接の目的とするというよりかは、むしろ八鹿高校事件で共闘会議側に犯罪行為がなかつたことの宣伝などその正当化や法廷闘争の強化、捜査の拡大強化に対する牽制、日本共産党に対する闘争の強化等に拡大していつたということができるところ、このような活動が部落差別解消という公益目的の実現にどれ程の効果があるかは疑問であり、さらに適法な捜査に対する牽制が公益に役立つものとは解されないし、現に裁判所において審理中の個別具体的な裁判の内容にわたつてその当否を主張し、一定の内容の裁判を求める運動を展開することは、司法権の独立に対する侵犯として普通地方公共団体の事務の内容に属するものではないこと、当時の町財政の状態など諸般の事情を総合して判断すると、前記の補助金の支出が重要かつ緊急の公益目的の実現にあるということはできず、仮に若干の重要性緊急性が認められるとしても公益目的実現の有効性と適切性は皆無に等しいものといわなければならず、右支出は地方自治法二三二条の二に定める公益上の必要がある場合にあたるとすることができないから、違法であるといわなければならない。
この点に関し、被告は、高等学校において部落解放問題について本質的に取り組み研究するために解放研が設置され、兵庫県教育委員会もその設置を進める方針であつたのに、八鹿高校教師団は、管理職及び生徒の意思に反し、断固これを拒否し、話し合いにも応じず、ハンガースト中の生徒を放置したまま下校するなどの教育者として許されない行動にでたので、八鹿高校の教育正常化を求めた部落完全解放のための闘争であり、右共闘会議には地域団体を始め広範囲の団体を通じて絶対多数の住民が参加していて右共闘会議への補助はこれら住民の要望であり、右共闘会議に苦しい生活環境の中から積極的に多数参加していた解放同盟員に対する費用弁償的補助は同和行政の責務であったと主張する。しかし、八鹿高校では、従前においてもクラブ活動として部落問題研究会が存在して活動を続けており部落解放問題が無視されていた訳ではないし、解放研の設置の否定がただちに部落完全解放の否定に結びつくものでもないし、右共闘会議への補助が住民の要望であつたとの点についても、前記のとおり昭和五〇年二月以降、朝来町長には被告に代つてFが就任していることが認められ、右事実によると、右共闘会議に絶対多数の住民が正確な認識のもとに参加し右共闘会議への補助を要望していたものとは、たやすく認定できないものがあるし、解放同盟員に対してのみ費用弁償することは公平を欠くものであるから、被告の右主張はたやすく採用し難い。
(五) 別表4(5)の支出について
(1) 〈証拠〉を総合すると、朝来町の手続上右支出の支出負担行為が昭和五〇年一月九日から同月一二日までの日共差別キャンペーン粉砕看板作りとなつていて五名の名前が記載されていること、右合計金額が四万八〇〇〇円となつていること、右活動の明細は、一名につき四日×三〇〇〇円=一万二〇〇〇円、残り四人につき三日×三〇〇〇円=九〇〇〇円となつていること、右支出は昭和五〇年二月六日付けで解放同盟甲支部長Cが請求し、翌七日に同人あて支出されていることの各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、弁論の全趣旨により原告ら主張の撮影者が原告ら主張の日時場所において撮影した写真であると認められる〈証拠〉によれば、昭和五〇年二、三月当時、八鹿町内、養父町内において、日共差別キャンペーン粉砕の看板が多数掲げられていることが認められる。右支出により、右の看板が作られたかは定かではないが、同趣旨の看板が作られたものと推測できる。)。
(2) 右支出の対象となつた看板の内容は、部落解放を促進するような内容では決してなく、明らかに日本共産党を名指しで批判した看板であることは明らかである。そして、地方公共団体の事務の内容は、前述のとおりであり(理由欄第三の三4(二)参照)、特定の政党に対しその不当性等を主張するような内容の看板を作るにつき公金を支出することは明らかに越権で、許されないものといわなければならず、これをもつて公益上必要であるということはできない。したがつて、別表4(5)の支出も違法である。
四本件支出により朝来町に生じた損害の有無及び額
1 別表1、3(ただし(37)を除く)及び4の各支出について
既に認定したところから明らかなように、右各支出により朝来町がなんらかの対価ないし利益を得ていることは認められないので、右各支出金額すべてが朝来町の被つた損害ということになる。
2 別表2の支出について
同表中(5)の支出は、既に認定したように違法ということはできないのであるから、損害も発生していないこととなる。
そこで、同表中(1)ないし(4)の支出による損害が発生したかどうかにつき検討するに、この点、原告らは請求原因(事実欄第二の一7)で主張しているように、五六八万六〇〇〇円が補填されたとしている。もつとも、右補填の内容は必ずしも定かではないが、〈証拠〉によれば、朝来町は解放車大型バスを昭和五五年二月一五日に売却して五〇七万円の収入を得、更に解放車ブルーバード及びトヨタハイエースをいずれも昭和五五年四月一五日に売却して合計一五万円の収入を得ていることが認められ、またスピーカー(四六万六〇〇〇円)については原告らにおいて無償譲与した旨自認しているところから、その合計額五六八万六〇〇〇円が補填されたと主張するものと解される。
右によれば、まずスピーカーについては原告らにおいて損害が発生していないことを自認しているので、その全額四六万六〇〇〇円の損害は発生していないこととなる。
次に、大型バスを含む解放車三台の損害の有無であるが、右三台の所有権は前記認定から認められるように(理由欄第三の三2参照)、いずれも朝来町にあり、朝来町がその支出の対価を受けていることは明らかで、この点に関する限り損害が発生しているとはいえない。朝来町として被つたとすれば、せいぜい右解放車が解放同盟にほぼ独占的に使用され町の公用車として使用できなかつたことがある点であり、原告らも少なくとも右損害はある旨主張する(事実欄第二の六3(三)(1)オ参照)が、この点に関する原告らの立証はなにもなく、結局において解放車三台を購入するにつき朝来町が被つた損害を認定することはできない。
3 地方交付税について
(一) 被告は、本件支出の財政需要について、南但一〇町が共同して兵庫県知事に対し強く要望し、その結果特別交付税が交付され、結果的に特別な本件支出が補填されたのであるから、損害はない旨主張する(事実欄第二の五4参照)ので、以下検討する。
(二) 〈証拠〉を総合すると、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(1) 昭和四九年六月六日開催の南民協定期総会後、Cらから、南民協に対し、八〇〇〇万円を越える金員の要求が出されたが、当時の会長であつた岡村勝文は、右要求の内容・南民協の役割等を考慮して、南但一〇町長会で処理するようにした(この詳細は理由欄第三の三1(二)(4)参照)。
(2) 右要求金額が多額で、その要求をそのまま認めることは町財政の破綻をきたすとの危機意識から、南但一〇町は、ことあるごとに兵庫県側に対し財政的援助を要請した。たとえば、昭和四九年七月五日には、南但一〇町の各町長、各町議会議長及び各町教育長の連名で、兵庫県知事及び兵庫県教育長に対し、南但各町は解放同盟の部落完全解放を目指した行政・教育の点検、諸事業の完全実施の強い要求と、各町財政力との接点に立ち苦慮しているとして、兵庫県による抜本的な財政援助を要望している。
(3) 朝来町においても、兵庫県に対し、昭和四九年度の地方交付税の特別交付税要求に際し、特別財政事情の一つとして、同和対策費のうち補助金三一五三万一〇〇〇円を要求している(乙第二三号証の九参照)。その結果、昭和四九年度の特別交付税の額(三八一二万九〇〇〇円)は、昭和四八年度に比べ五割増し(当時の一般的伸びは一割程度)、金額にして一〇〇〇万円を越える伸びとなつた。
右大幅な伸びにつき、国・県の説明はないが、朝来町としては、前記要請に基づく同和対策を特に考慮されたものとして受け取つていた。
(4) なお、昭和四九年当時の経済状態は、いわゆるオイルショック後の狂乱物価の時期であつた。
(三) 右によれば、なるほど朝来町の昭和四九年度の特別交付税額が大幅に伸びたことは認められるが、右大幅な伸びが、当時の物価情勢及び国・県における何らの説明もない(このことは、すぐ後に述べる地方交付税の趣旨からして当然ではあるが)ことからすれば、同和対策全般について特別の財政需要があることを理由とするものであることが窺えるとしても、被告主張のように本件支出のみを特別考慮したものといいきれるか定かではないこと、被告も認めるとおり、地方交付税の交付にあたつては、地方自治を尊重し、条件をつけ又はその使途を制限してはならない(地方交付税法三条二項)とされていることから、大幅に増額された特別交付税額を裁量の余地もなく、そのまま本件支出に充てる関係にはないこと、仮に本件支出金額が全額返還されたとしても、直ちにその全額を国に返還する関係にはなく、その分朝来町の財務会計が補填される関係にあることからすれば、特別交付税の大幅な補填をもつて損害が発生していないとはいえない。
4 このほか、被告は町長在職中の事業により、朝来町財政が好転したことを主張する(乙第三九、第四〇号証参照)が、そのような事実をもつて、本件支出による損害が生じていないということはできない。
五被告の責任
1 解放同盟の運動に対する被告の関与の仕方等について
既に認定した事実に加え、〈証拠〉を総合すれば、以下の事実を認定することができ、同認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) いわゆるB差別文章事件以来、解放同盟の確認会・糾弾会はその激しさを増し、そのための財政措置につき、被告を含む南但一〇町長等は昭和四九年七月五日に兵庫県知事等に要望書を提出した(理由欄第三の四3(二)(2)参照)。
(二) 昭和四九年八月二二日には、和田山町において、「狭山差別裁判完全勝利南但総決起大会」が開催され(理由欄第三の二3(二)(2)参照)、被告は右大会に参加していた。
(三) 昭和四九年九月八日にはいわゆる壱事件が発生した(理由欄第三の一4参照)が、その前日(同月七日)からの被告の右事件に対する関与は次のとおりである。すなわち、Fらは、同日、癸有志連発行名義の、朝来中学校の校内確認会を批判した「この世の生き地獄……」と題するビラ(甲第七四号証)を兵庫県朝来郡内の各新聞販売店に持ち込み、翌八日(日曜日)の朝刊に折込み配布する旨の依頼をしたところ、朝来町職員、解殺同盟甲支部員らが右各新聞販売店に赴き右ビラの配布を取り止めて提出するよう強く要求したため、右各新聞販売店はやむなく右要求に応じた。
そこで、Fらは、翌八日にせめて朝来町内だけでも配布しようと、右ビラと同ビラを配布しようとして、解放同盟、朝来町当局の介入で新聞折込みが妨害されたいきさつを記載してこれに抗議する内容の新たなビラ(甲第七五号証)を作成し、右二つのビラを一組にしたものを朝来町のほぼ全域にわたつて配布し始めたが、朝来町職員は、各戸をまわつて配布された一組のビラを被告ら作成名義のビラ(甲第七六号証)と差し替えていつた。同ビラの内容は「急告」と題し、Fらが配布していた前記ビラは事実を曲げた記述があり、善良な市民を不安に陥れ、朝来町が行政の責任において行つている同和行政を混乱させる目的であるというもので、右のような朝来町職員の行動はいずれも法律上根拠のない被告の命令に基づくものであつた。被告が、このような行為にでたのは、Fらの行動が部落差別解消に向けての行動とは見受けられず、朝来町の同和行政を妨害するにすぎないとの理解からであつた。
(四) 昭和四九年九月二九日に、解放同盟甲支部と朝来町(代表者は当時町長であつた被告)との間において、解同の窓口一本化、解放車三台の整備等につき交渉が妥結している。
(五) 昭和四九年一〇月二〇日から同月二六日までの間、いわゆるF宅包囲監禁事件が発生した(理由欄第三の二1参照)が、被告は朝来町の各種団体等が解放同盟に共闘したためその会長としてF糾弾闘争に参加した(当時の参加の状況は、たとえば、〈証拠〉により認められるように、椿野助役自ら執務時間中に鉢巻をつけ、「狭山差別裁判糾弾、部落解放同盟」と書かれたゼッケンをするような状況であつた。)が、最終日の昭和四九年一〇月二六日には朝来町役場前で大総括集会が開かれ、右模様は朝来町の広報誌「広報あさこ」(昭和四九年一一月一五日号)の一面に写真入りで大きく報道されるほどであつた。
(六) 昭和四九年一〇月三一日には、部落解放同盟が中心となり東京において、狭山差別裁判全国集会が開かれ、解放同盟甲支部員らが参加している(理由欄第三の二3(二)(3)参照)が、朝来町が右参加費用を負担したのは部落差別解消を目指し、部落差別裁判を許さず、正しい裁判を求め、真実を見る、聞く等の行動のため支出したものである(理由欄第三の三4(二)(1)ウ参照)が、被告は、このような裁判闘争に使用されるための公金の支出が前例のないことで、しかも司法権に対する越権であるにもかかわらず、法律専門家・自治省への問合せ等もせず、部落解放同盟等の主張している趣旨に合致するとして安易に支出している。
(七) 昭和四九年一一月二二日にはいわゆる八鹿高校事件が発生し、同年一二月二日Cらが逮捕され、引続き同月二四日に起訴されたものである(理由欄第三の二2参照)が、被告は、八鹿高校闘争において八鹿高校差別教育糾弾闘争朝来町共闘会議の本部長となり、部落解放同盟の影響力の強い解放研設置を認めるべきであると判断し、右闘争前後を通じ朝来町長としてあるいは南民協の役員として、解放同盟に反対する八鹿高校教師団を手厳しく批判している。
(八) 被告の態度は、その後もしばらくは同様で、昭和五〇年一月一日発行の「広報あさこ」においても新年の挨拶としてこのことを確認し、同月一一日に朝来中学校体育館で開催された八鹿高校差別教育糾弾闘争総決起集会において、共闘会議本部長として力強い決意表明をし、更に同年二月一〇日には南但一〇町の町長の一員として、八鹿高校闘争につき、行過ぎ、衝撃的な動揺、不信感を与えたと反省しながらも、部落解放同盟と反対の立場の諸団体の謀略的情宣活動は許すことができないとの声明を出している。
(九) 被告は、昭和五〇年四月二五日発行の「広報あさこ」において、被告が昭和四九年一月以降取り組んできた解放行政・解放教育が朝来町民と遊離した現状となつたことを反省し、今後の解放行政の推進に精進する旨の決意を述べている。
2 右によれば、被告の解放行政は、解放同盟の要求に対し、その一部は拒否しながらも基本的なものはほとんどこれを認容し、解放同盟の活動が激しさを増すにつれ、その活動を抑制するどころか、むしろその勢いに押され、時には行政としての主体性を失い、解放同盟と一体となつて行動する場面も見受けられる。
そこで、右のような理解を前提に、本件で問題となつている朝来町に損害を生ぜしめた別表1、3(ただし(37)を除く)及び4の各支出についての被告の責任の有無を検討するに、既に第三の三1(三)及び五1(三)で認定したように、被告は昭和四九年六月六日の南民協定期総会の段階で既に別表1(1)の支出の違法を知り得た筈であり、また同年九月に発生した元津事件において解放同盟の一部と同様の態度をとり、Fら配布のビラ回収を町職員に命じていることから明らかなように、被告は、昭和四九年六月六日の段階で既に解放同盟の一部の者の盛んな活動に気を取られ、解放行政・解放教育の面で的確に事態を検討判断して行政の主体性を保持することに十分注意を用いず、極めて容易に解放同盟の一部の者の主張を正当と信じ、かつ漫然とその要求が公益上の必要性を具備するものと判断していたものというべきである。
したがつて、それ以降発生したF宅包囲監禁事件、狭山差別裁判闘争全国集会、八鹿高校事件に関連して被告が支出した別表1、3(ただし(37)を除く)及び4の各支出につき、被告はその支出が違法で朝来町に損害を与えるものであることを知つていたか、少し注意をすれば容易にそのことを知りうる立場にあつたということができるから、被告は故意又は重大な過失により、右支出額に相当する損害を朝来町に生ぜしめたものといわなければならない。被告は、兵庫県から各市町村に対し、運動団体の要求は緊急妥当性を検討し、解放につながる経費は負担して援助するよう強力な指導がなされた旨主張し(事実欄第二の五1(三)(2)参照)、〈証拠〉には右主張に沿うものがあるが、仮に右事実が認定できるとしても、本件各支出は、その緊急妥当性を検討して解放につながるものであるとたやすく断定できないから、前記判断を左右することはできない。
また被告は、収入役や町議会においても本件各支出を適法と判断していたし、本件各支出の違法性を主張して選挙に当選した他の町長らも特別負担金を支出した旨主張するが、収入役や町議会の判断と離れて被告は町長としての責任を果たすべきであるし、他の町長らの特別負担金支出は、各町独自の政治的考慮によるものと推認できるから、前記判断を左右することはできない。
そして、被告は右違法な支出額と同額の損害を朝来町に被らせたことになるから、朝来町に対し、本件訴状送達の翌日である昭和五一年一月一八日から支払済まで、これらに対する年五分の割合による遅延損害金を賠償する義務がある。
第四結論
よつて、原告らの本訴請求のうち別表1、3(ただし(37)を除く)及び4の合計一〇九〇万七九九七円及びこれに対する昭和五一年一月一八日から完済にいたるまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度においてはこれを正当として認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、なお仮執行宣言の申立は相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官野田殷稔 裁判官小林一好 裁判官横山光雄は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官野田殷稔)
(別表)
(支出総額30,992,387円)
1 南但民主化協議会関係……支出合計5,820,600円
支出先
支出時期
支出名目
支出金額(円)
支出科目
(1)
南民協
49.11.13
第3期分担金
718,000
3-1-1-19(注1)
(2)
〃
50.1.31
特別会計負担金第1期分
2,200,000
〃
(3)
〃
50.3.5
同2期分
2,333,500
〃
(4)
〃
50.3.19
臨時負担金
569,100
〃
(注1) 3(民生費)-1(社会福祉費)-1(社会福祉総務費)-19(負担金・補助金・交付金)
2 事業費・備品購入費……支出合計19,084,390円
支出先
支出時期
支出名目
支出金額(円)
支出科目
(1)
杉谷準之祐
49.11.9
解放車購入費
1,718,760
3-1-4-18(注2)
(2)
川崎自動車
49.11.21
〃
2,169,630
〃
(3)
兵庫三菱ふそう自動車販売(株)
50.1.22
解放バス購入費
14,600,000
〃
(4)
NSY企画室
50.2.1
解放車スピーカー購入費
466,000
〃
(5)
あわや金物店
50.2.1
福祉会館前掲示板一式購入
130,000
〃
(注2)3(民生費)-1(社会福祉費)-4(同対事業費)-18(備品購入)
3 甲支部活動費……支出合計5,203,597円
支出先
支出時期
支出名目
支出金額(円)
支出科目
(1)
解同甲支部長
49.11.12
甲支部専従者賃金(10月分)
90,000
3-1-11-19(注3)
(2)
〃
49.12.3
〃 (11月分)
90,000
〃
(3)
〃
49.12.23
〃 (12月分)
90,000
〃
(4)
〃
50.1.21
〃 (1月分)
90,000
〃
(5)
〃
50.2.18
〃 (2月分)
90,000
〃
(6)
〃
50.3.20
〃 (3月分)
90,000
〃
(7)
〃
49.11.11
甲支部専従者健康保険料・厚生年金
(9月分)
13,616
〃
(8)
〃
49.11.12
〃 (10月分)
13,616
〃
(9)
〃
49.11.20
〃 (11月分)
13,616
〃
(10)
〃
49.12.23
〃 (12月分)
13,616
〃
(11)
〃
50.1.21
〃 (1月分)
13,984
〃
(12)
〃
50.2.18
〃 (2月分)
13,984
〃
(13)
〃
50.3.25
〃 (3月分)
13,984
〃
(14)
〃
50.3.31
甲支部専従者社会保険(3月分)
13,984
〃
(15)
〃
50.3.31
甲支部専従者社会保険・失業保険
(3月分)
7,393
〃
(16)
〃
49.12.2
甲支部専従者年末手当
90,000
〃
(17)
〃
50.2.8
甲支部専従者失業保険(2月分)
585
〃
(18)
兵庫県労働保険会計
50.3.31
〃 (49.8-50.1分)
6,435
〃
(19)
解同甲支部長
50.3.31
〃 (3月分)
585
〃
(20)
〃
50.1.21
解放車専従運転員賃金(1月分)
90,000
〃
(21)
〃
50.2.18
〃 (2月分)
90,000
〃
(22)
〃
50.3.20
〃 (3月分)
90,000
〃
(23)
〃
50.1.21
解放車専従運転員失業保険(1月分)
585
〃
(24)
〃
50.2.18
〃 (2月分)
585
〃
(25)
〃
50.2.6
解放車専従運転員社会保険(1月分)
6,808
〃
(26)
〃
50.2.18
〃 (2月分)
6,808
〃
(27)
〃
50.1.21
専従員掛金改定による差額
3,293
〃
(28)
〃
50.3.3
専従運転員大型バス運転手当(2月分)
16,000
〃
(29)
〃
50.3.31
〃 (3月分)
17,000
〃
(30)
〃
50.3.31
夜間管理人補助
100,000
〃
(31)
〃
50.3.31
支部活動費賃金補助(S)
60,000
〃
(32)
〃
50.3.31
専従者賃金改定分(1-3月分)
90,000
〃
(33)
〃
49.12.3
支部活動費(八鹿闘争)
243,000
〃
(34)
〃
49.12.4
支部活動費賃金補助
102,000
〃
(35)
〃
49.12.10
支部活動費賃金・交通費補助
32,120
〃
(36)
〃
50.2.3
10.20~10.26 F糾弾闘争における
支部活動費
2,500,000
3-1-11-21(注4)
(37)
解同支部書記長
50.2.3
同和学習活動費
1,000,000
〃
(注3) 3(民生費)-1(社会福祉費)-11(同対費)-19(負担金・補助金・交付金)
(注4) 3(民生費)-1(社会福祉費)-11(同対費)-21(貸付金……生業資金等)
4 旅費の補助金……支出合計883,800円
支出先
支出時期
支出名目
支出金額(円)
支出科目
(1)
解同甲支部長
49.11.14
活動費費用弁償(狭山闘争中支部内警戒要員)
69,000
10-1-5-9(注5)
(2)
〃
49.11.14
〃 (F闘争専従要員)
72,000
〃
(3)
同対室長
49.11.12
狭山闘争参加経費(食事・通行料等)
601,800
〃
(4)
解同甲支部長
50.2.6
和田山闘争本部詰要員活動費
93,000
〃
(5)
〃
50.2.6
日共差別キャンペーン粉砕看板作り日当
48,000
〃
(注5) 10(教育費)-1(教育総務費)-5(同和教育費)-9(旅費)